安倍政権による紛争当事国への経済協力拡大

日本のマスメディアも世論もこの数年で変質しました。武器輸出解禁(そして武器輸出促進)とか、外国軍隊への自衛隊航空機の貸与とか、紛争当事国に対する経済協力とか、以前なら問題視されたであろうテーマに無頓着になっています。私は大きな問題だと思いますが、批判する人はあまりいないし、メディアもあまり大きく取り上げません。

来る12月に日露首脳会談が予定され、ロシアに対する大規模な経済協力が約束される見込みです。安倍内閣は前代未聞の「ロシア経済協力担当大臣」という大臣ポストを設けました。これまで多額のODAを供与してきた国に関しても、たとえば「インドネシア経済協力担当大臣」なんてポストは作りませんでした。外務省を抜かして官邸主導でロシアへの経済協力を強化するという強い意志が感じられ、対ロシア経済協力が本格化しそうです。

ロシアは、ウクライナ紛争に介入し、シリア内戦にも介入して空爆を繰り返しています。欧米諸国はロシアに対して経済制裁を課しています。同盟国のアメリカが経済制裁をする国に対し、安倍政権は経済協力を本格化しようとしています。ロシアとの関係はもちろん大事ですが、「紛争当事国へ経済協力を拡大して本当によいのか」という視点も忘れてはいけないと思います。

さらにサウジアラビアにも経済協力を拡大する方針です。10月8日にイエメンの首都でサウジアラビア主導の連合軍が空爆し、死者は140名を超えたと報道され、国連も非難しています。イエメンでは結婚式やお葬式が空爆され、民間人が多数犠牲になっています。

そのサウジアラビアと10月9日に経済閣僚級会合を開き、アニメやゲームといった分野の人材育成、原子力エネルギー、スポーツ選手の育成などで協力関係を強化することになったそうです。空爆で大勢の犠牲者が出ているなかで、アニメやゲームというコントラストは異常な気がします。これも紛争当事国への経済協力拡大です。産油国サウジアラビアの重要性もわかりますが、だからといってサウジアラビアの行為に対して無批判でよいとは思いません。

ついでにいえば、このところサウジアラビアとイランの緊張が高まっており、イエメンで起きているのはサウジアラビアとイランの代理戦争です。実際のところ、サウジの方は直接軍事介入を行っていて「代理」ですらない当事者であり、イランの影響力をイエメンから排除するための空爆といえます。イランが「日本はサウジアラビアに肩入れしている」と受け取っても不思議ではありません。安倍政権はその点も計算に入れた上で、それでも経済協力を拡大しようとしているのでしょうか。よくわかりません。

かつて日本政府の「政府開発援助(ODA)大綱」には、次の4つの原則がありました。

(1)環境と開発の両立
(2)軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避
(3)軍事支出・大量破壊兵器等の動向に十分注意
(4)民主化、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意

援助対象国の軍事支出の動向や国際紛争助長といった点を考慮した上で、ODA実施の可否を判断していました。厳密にいえばロシアやサウジアラビアは十分豊かな「ODA卒業国」なのでODA対象国ではありません。しかし、かつてのODA大綱の精神に照らすと、ロシアやサウジアラビアに対する経済協力には慎重になるのが、従来の日本外交の常識だったと思います。かつての自民党政権であれば、紛争当事者であるロシアやサウジアラビアに対して、前のめりに経済協力を行うことはなかったと思います。

安倍政権は歴代の自民党政権とはだいぶ雰囲気が異なります。安倍政権は、イケイケどんどんで、何でも官邸主導で外交も強引に進めます。紛争当事者への経済協力などまったく意に介しません。

安倍政権は、古き良きODA大綱を2015年に廃止し、「開発協力大綱」という新しい大綱をつくりました。新しい「開発協力大綱」では、民生支援や災害支援に限れば外国軍隊への支援も可能になっています。軍隊の民生支援や災害支援のための資機材やトレーニングは、戦時にも役立つため、結果的に軍事力強化につながります。表向きは民生支援や災害支援の大義名分があっても、軍隊に対するODAによる支援は、その国の潜在敵国から恨まれます。割に合う援助とはいえません。

*ご参考:2016年8月7日付ブログ「安倍政権の着実な軍事化の歩み」

安倍政権の着実な軍事化の歩み
安倍政権のタカ派路線のなかでは、集団的自衛権や特定秘密保護法等の問題が注目され、批判をあびてきました。その一方で、目立たない形で粛々とそして着実に日本の軍事化が進んでいます。法改正が必要な事柄であれば国会で審議され、野党も声をあげる...

安倍外交の原則のひとつは、「無原則・無節操」ということかもしれません。短期的な国益(あるいは、安倍総理とその周辺が「国益」と信じ込んでいるもの)のためなら、紛争当事国や人権無視の独裁政権でも協力を惜しみません。それが「現実主義」だと勘違いしているようです。過去の侵略戦争を否定したがる人たちは、現在進行中の侵略行為にも寛容なのかもしれません。そういう態度は、日本のイメージダウンにつながり、長期的な国益に反すると思います。

中国の対外経済協力は、援助受け取り国の人権や環境を無視したものが多く批判されてきました。安倍政権の対外経済協力も同じ方向に向かっています。安倍政権になってから日本の「対外経済協力の中国化」が止まりません。日本は先進民主主義国としての名誉ある地位を自ら捨て去ろうとしているように見えます。

早いところ安倍政権を終わらせなくては、国際社会における日本の地位が危うくなりかねません。日本が平和国家、民主国家であり続けるために、安倍政権の暴走を止めなくてはいけないと決意をあらたにしました。