トランプ政権を占う(2)国際政治版

この前のブログから日がたってしまいましたが、「トランプ政権を占う」の第2回です。

【予測1】アメリカの外交力・軍事的影響力は低下し、世界は混乱に向かう。

しばらくアメリカ外交は混乱し、外交力・軍事力に関しては大きく力を失うことになるでしょう。孤立主義に走り、海外の米軍基地を縮小すれば、アメリカの影響力は世界中で低下します。アメリカの軍事介入の可能性が低いとなれは、中近東やアフリカの独裁者やテロ組織はより大胆な行動に出る可能性もあります。

一方でトランプ氏は軍事力の増強を訴えています。海軍の艦艇や戦闘機をドンドン増やす計画ですが、艦艇や戦闘機はすぐに増やせるものではありません。建造計画に何年もかかります。「孤立主義なのに、軍事力を増強する」というロジックは、私にはちょっとわかりません。艦艇の建造を「景気対策の公共事業」と同列に考えている節もあります。

まして「海外の米軍基地は縮小するけれど、軍事力は強化する」というのもわかりにくいです。アメリカ本土の基地を強化し、公海上に浮かんでいる海軍の艦艇を増やすのでしょうか。海外に派兵しないなら強襲上陸作戦部隊の海兵隊は無用の長物になりますが、それも増強すると主張しています。理解できません。

そもそも他の追随を許さない軍事力を誇るアメリカは、直接的な脅威はほとんどありません。隣国のカナダやメキシコと領土問題を抱えているわけでもありません。アメリカの戦争というのは、ほとんどが自ら介入して始めた戦争です。アメリカに侵略しようとしているのは、イスラム原理主義のテロリスト等ですが、テロに対しては海軍の艦艇や戦闘機の増強は必要ありません。

日本にある米軍基地のような前進拠点であり、かつ、高度な修理や整備ができる基地を失うことになれば、アメリカ軍の作戦能力にも支障をきたします。ペルシア湾に空母機動部隊を派遣するのに、横須賀から派遣するのと、ハワイの真珠湾から派遣するのでは、必要な日数も積載燃料も大きく変わります。「海軍の船は増やすのに、母港は減らす」というのは、ちょっと考えにくい判断です。どうするつもりでしょうか。

アメリカが孤立主義に走り世界から撤退すれば、「力の空白は必ず誰かが埋める」という法則にしたがい、アメリカ以上に厄介な国の力が伸長することでしょう。中国、ロシア、イラン等の国が、新しい動きを始めることでしょう。イランとサウジアラビアの対立、シリア情勢、イスラム国の動き、トルコのエルドアン政権のイスラム化、イスラエルへの攻撃の激化等、いろんな動きが表面化してくるでしょう。アメリカが介入しないとなれば、よろこぶ国や勢力はたくさんいます。

【予測2】アメリカのソフトパワーは低下する。

アメリカの強さの源泉は、軍事力や経済力だけではありません。アメリカの文化や民主主義、自由や人権といった普遍的価値への信頼や敬意が、アメリカの「ソフトパワー」として重要でした。民主主義国のリーダーと自他ともに認めてきたのが、アメリカのソフトパワーの源泉でした。冷戦時代には自由主義陣営の盟主であり、西側同盟の旗頭としての尊敬を勝ち得てきました。「アメリカに対する敬意」という資産は、トランプ氏が当選した瞬間に減価してしまい、アメリカのソフトパワーは大幅に低下しました。それは外交力の低下を意味します。

【予測3】地域大国がさらに台頭し、「Gゼロ」といわれる状況が本格化する。

アメリカの孤立主義化は、地域大国の力の拡大を意味します。ロシア、中国、ブラジル、インド、南アフリカ、インドネシア等の重要性は高まります。EUも自らの存在意義を再定義するかもしれません。それぞれの国が迷いつつも自国の利益拡大に向け、霧の中でうごめき始めることでしょう。

アメリカの孤立主義的傾向は、日本にとっても重大な問題です。さっそく集団的自衛権の拡大解釈で自衛隊が海外の紛争に介入することになるかもしれません。日本も「普通の国」になり、アジアやアフリカの紛争の当事者になってしまうかもしれません。南スーダンでさっそく危険な道へ足を踏み入れようとしています。

気候変動も重要な課題であり、これまでアメリカ政府も重視してきました。しかし、トランプ政権は地球温暖化を疑問視しており、この分野では停滞どころか後退が懸念されます。道義的なリーダーシップを発揮する上で、アメリカの影響力は低下します。それこそトランプ氏の望んでいることです。地球環境にとって最大の脅威は、アメリカ大統領のトランプ氏ということになります。

【予測4】世界に新しい民主的な秩序を創ろうとする試みが始まる。

アメリカ以外の民主主義国や新興国が協力して、多国間主義の新しい秩序や機構を創ろうという動きが出てくるかもしれません。かつてアメリカの学者だったと思いますが、「D10(Democratic 10)」という構想を提案しました。G7が機能不全を起こす中で、先進民主主義国が10か国集まって、世界経済や地球環境、人権、民主主義等の問題を議論する場を創ろうという構想です。G7に加えてオーストラリアや韓国が加わります(*もう1か国は忘れました)。そういう民主主義国家が団結して世界に秩序をもたらそうという試みは、日本が主導してもよいくらいだと思います。そういう新しい動きが出てこないと、アメリカの影響力低下の穴をスムーズに埋めることはできません。もっともアメリカが入らないとG9になってしまう恐れがあります。

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