安倍政権の軍事化政策をふり返る

安倍政権のタカ派的な政策のなかでは、集団的自衛権や共謀罪の問題は注目され、批判をあびてきました。一方で、目立たない形で粛々とそして着実に日本の「軍事化」が進んでいます。法改正が必要な事項であれば国会で審議され、野党も声をあげる機会があります。しかし、閣議決定だけで静かに進む「軍事化」は目立たないため、あまり国民の目につくことなくいつの間にか進行します。

安倍政権の「軍事化」路線を象徴する4つの事例を取り上げます。なお、以下の事例は少しは報道されましたが、報道が断片的だったこともあり、さほど議論を呼びませんでした。

2013年12月17日「国防の方針」に代えて「国家安全保障戦略」を閣議決定

2014年4月1日「武器輸出三原則」に代えて「防衛装備移転三原則」を閣議決定

2015年2月10日「ODA大綱」に代えて「開発協力大綱」を閣議決定

2016年5月2日 海上自衛隊機(TC90)のフィリピン海軍への貸与に合意

この4つの事例は、国際紛争に積極的に関わろうとする安倍政権の姿勢を象徴しています。これを見れば「積極的平和主義」というよりも、「積極的軍事主義」であることは明らかです。それぞれの含意を見ていきます。

1.大学における軍事研究の解禁

2013年12月17日「国防の方針」に代えて「国家安全保障戦略」を閣議決定しました。そのなかの「知的基盤の強化」という項目で「高等教育機関における安全保障教育の拡充・高度化、実践的な研究の実施等を図る」と述べ、防衛省と大学との共同研究の実施を打ち出しました。大学における軍事研究を促進する狙いです。

これを踏まえ防衛省は2015年から安全保障に関する基礎研究に資金を配分する「安全保障技術研究推進制度」をスタートし、豊橋技術科学大学や東京工業大学などの計9件の研究が選ばれました。一部の大学の研究者としては、研究資金の不足を防衛省の研究費で補おうという意図だったのかもしれません。その後、日本学術会議が大学における軍事研究に慎重な姿勢を見せたこともあり、大学での軍事研究は下火になりました。日本学術会議の見識ある声明のおかげで、安倍政権の意図はくじかれましたが、危ういところでした。

2.武器輸出の解禁と積極的な売り込み

2014年4月1日「武器輸出三原則」に代えて「防衛装備移転三原則」を閣議決定しました。条件付きながら、武器輸出が可能となりました。そしてオーストラリアへの海上自衛隊の潜水艦(そうりゅう)の売り込みに政府は力を入れました。結果的には入札で負けたため潜水艦輸出は成立しませんでしたが、もし実現していれば数千億円(あるいは数兆円)の売り上げになったことでしょう。

アベノミクスの陰の柱のひとつは武器輸出といえます。日本が「死の商人」として国際社会に打って出ることは、日本の平和国家としてのイメージを大きく損ない、長い目で見れば国益を毀損します。紛争に巻き込まれる可能性も高まります。さらに日本が輸出した武器が非人道的な目的に使用された場合には、倫理的・道義的責任を問われます。武器輸出で稼ごうという発想は誤りです。

3.ODAによる他国軍隊援助の解禁

2015年2月10日「ODA(政府開発援助)大綱」に代えて「開発協力大綱」が閣議決定されました。この決定によりODAを使って他国の軍隊を支援することが可能になりました。具体的には「民生目的、災害救助等非軍事的目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する。」という文言です。民生支援や災害支援に関しては軍隊への支援も可能になります。

しかし、軍隊へのODA供与には問題があります。軍隊の非軍事部門(民生支援や災害支援)の援助であっても、結果的に軍事力増強に役立ちます。第一に日本からODAで援助してもらった分だけ予算が浮きます。浮いたお金を別の軍事的用途に流用できます。

第二に、軍隊が実施する人命救助には、軍事的な意味があります。軍は航空機を使って海洋における人命救助を行いますが、単に人道的な理由でやっているわけではありません。平時は純粋に人道的な理由で人命救助を行うのでしょうが、戦時には撃墜された味方の戦闘機等のパイロットを救い出すために人命救助用の航空機を用意しているわけです。パイロットの救命体制を整えるのは、戦力と士気を維持する上で重要です。戦闘機のパイロットを養成するには莫大な予算と時間がかかり、パイロットの救出は軍事的に重要な意味があります。

第三に、軍の工兵隊(自衛隊では施設科と呼びます)の災害復旧能力は、戦闘で壊れた施設を復旧する能力と同じです。従って、軍の工兵隊の災害援助の能力を強化することは、戦闘能力を強化することと同義です。
軍が行う活動には、すべて軍事的な意味があるといえます。他国の軍隊をODAで支援すれば、当然ながら当該国の敵国(仮想敵国)から恨まれます。百歩譲っても、軍隊へのODA支援が許容されるのは、停戦監視や人道援助に関わるPKO活動への支援だけだと思います。それ以外の軍隊へのODAによる支援はやめた方がよいと思います。

4.他国への軍事援助の解禁

2016年5月2日海上自衛隊の練習機(TC90)をフィリピン海軍に貸与することで合意しました。海洋の警戒監視に使用することが想定されています。南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンを支援し、中国をけん制する狙いといわれています。自衛隊装備の他国への供与第一号となります。フィリピン側はP-3C対潜哨戒機を希望していたものの、維持費や技術的な問題もあり、TC90で落ち着きました。日本側は運用に必要な機材を供与し、パイロットや整備士を訓練します。

他国の軍隊に航空機を与え、パイロットや整備士を訓練すれば、まぎれもない軍事援助です。練習機とはいえ、警戒・監視に使うのなら、やはり軍用機です。機関銃やミサイルを装備していなくても、軍用機と見られます。世界の空軍や海軍の偵察機や警戒機には、レーダーやカメラを搭載しているだけで、武装していない航空機もたくさんあります。それでも軍用機と見られます。

中国側は、「日本海軍がフィリピン海軍に軍事援助して、中国の南シナ海進出を食い止めようとしている」と受け取ります。東アジアの軍事的緊張を高めることにつながる可能性は否定できません。最初に南シナ海の軍事的緊張を高めたのは中国かもしれませんが、それに対抗して日本が前のめりに軍拡競争に加わるのがよいことなのか疑問です。

第二次大戦後の中国は、何度も隣国と国境紛争を起こしてきました。領土問題をめぐって中国は、旧ソ連、インド、ベトナムと大規模な武力衝突を起こしています。すべての事例で中国側が先に手を出しています。超大国ソ連との国境紛争でも中国側が先制パンチを浴びせています。中国という国は、いざという時には武力行使をためらわない、という点を理解する必要があります。

フィリピンの大統領が人気取りのために過激な行動をとり、中国との武力衝突のきっかけをつくる可能性がないとは言い切れません。日本が貸与した海自機が、南沙諸島(スプラトリー諸島)で中国軍機に撃墜されたらどうなるでしょうか。日本が中国とフィリピンの国境紛争に巻き込まれる可能性が出てくるのなら、慎重に判断すべきです。南シナ海の航海の自由は重要ですが、そのことと中国・フィリピン間の紛争に自ら進んで関与しようとすることは別問題です。フィリピン海軍への航空機の貸与はやめた方がよいと思います。

以上のように、安倍政権の軍事化の歩みは着実です。安倍政権は、目立たないように、粛々と軍事化を進めています。多くの国民が気づいたときには手遅れになっている、という可能性も十分考えられます。そういう意味でも安倍政治を終わらせないと、本当に戦争に突き進んでしまいます。

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