日本は軍事援助をすべきか?

2016年2月29日付け読売新聞の記事の見出しに驚きました。「海自機、比海軍に貸与へ・・・南シナ海の監視に利用」とあります。見出しを見ただけで、「これはまずい」と思いました。

報道によると、退役した海上自衛隊の練習機(TC90)をフィリピン海軍に貸与するそうです。中国による南シナ海での海洋進出の動きに対し、空からの警戒・監視に利用するそうです。海自のTC90の行動半径はフィリピン軍機の倍以上で、南沙諸島の大半をカバーできるそうです。

おそらく「海上自衛隊」といっても国際社会ではあまり通用しません。英語や中国語、ベトナム語では「日本海軍」のような感じで翻訳されることでしょう。一応英語の正式な訳語として“Japan Maritime Self-Defense Force”と呼ぶのでしょうが、“Self-Defense Force”なんて言い方をすると「自警団」みたいな語感になるのだと思います。海上自衛隊は、規模や装備、練度から言っても「海軍」以外の何物でもありません。

国際的には「日本海軍がフィリピン海軍に軍用機を供与した」と解されることでしょう。軍事援助と見なされるのは間違いないです。練習機とはいえ、警戒・監視に使うのであれば、やはり軍用機です。機関銃やミサイルを装備していなくても、軍用機と見られることでしょう。世界の空軍や海軍の偵察機や警戒機には、レーダーやカメラを搭載しているだけで、まったく武装していない航空機もたくさんあります。それでも軍事的に必要だから使用されているわけです。

日本はいつの間に堂々と軍事援助する国になっていたのでしょうか。安倍政権下のODA大綱の見直しにあたって、人道目的や民生支援であれば、他国の軍隊にODAを出せるようになりました。しかし、ODAというわけでもなく、軍隊から軍隊への「軍事援助」と呼べるものを公然とやるようになったのはいつからでしょうか。

日本が貸与した海自機が、緊張高まる南沙諸島(スプラトリー諸島)で中国軍に撃墜されたら、どうなるのでしょうか。もしも日本が中国とフィリピンの国境紛争に巻き込まれる可能性が高まるのなら、慎重に判断すべきです。日本は尖閣諸島問題で中国と緊張関係にあり、さらに南沙諸島の問題にまで首を突っ込むとリスクは高まる一方です。南シナ海の航海の自由は重要ですが、そのことと中国・フィリピン間の紛争に自ら進んで関与しようとするのは別問題です。

中国とフィリピンの領土問題に関し、中国が軍事力を見せつけてアグレッシブなやり方で海洋進出するのは、批判されて当然です。しかし、だからといってもう片方の当事者に軍事援助を行うことは、賢明な判断とは思われません。あくまで平和的手段・話し合いで領土問題を解決することを中国とフィリピンの両国に訴え続けることが、日本政府の最大限の関与だと思います。

フィリピン軍の装備や訓練は、内戦向きです。新人民軍(NPA)ゲリラやイスラムゲリラ相手の戦闘には慣れていても、海戦や空戦には向いてないと思います。むかしフィリピンの大学に留学していたころ、学生寮のルームメートが大学の予備将校訓練団(ROTC:Reserve Officers’ Training Corps)に参加していたので、何度か軍事教練を見物したことがあります。軍事教練のマニュアルもおもしろ半分で読んだことがあります。友人も「こんな訓練じゃ、戦争に勝てないよ」と苦笑していました。どうみても外国軍との戦闘向きの軍隊ではありません。かつて日本・フィリピン友好議員連盟のメンバーだったので、フィリピンの情勢や安全保障環境も多少勉強しましたが、フィリピンの海軍や空軍の現状ではとても中国と対抗できません。中国とフィリピンの間で戦争が起きたらアッという間に勝負がつくでしょう。

フィリピン軍強化にテコ入れしたところで、フィリピン軍が中国軍に対抗できるようにはなりません。ムダな努力です。日本としては、中国とフィリピンの間で戦争が起きないよう、予防外交に最大限の力を注ぐべきです。軍事援助よりも多国間の緊張緩和の枠組みづくりといった領域でフィリピンを支えた方がよいと思います。日本は、軍事援助をしない方が賢明だと思います。軍事援助よりも、平和外交に力を入れるのが、日本の進むべき道だと思います。