防衛大生と集団的自衛権

今年の防衛大学卒業生の任官拒否が、前年に比べて2倍に増えたそうです。「前年比2倍」というのは尋常ではありません。雇用情勢の改善も一部影響しているかもしれませんが、おそらく大きな原因は集団的自衛権の問題だと思います。防衛省幹部も「集団的自衛権をめぐる憲法の解釈変更や安保法制の影響は否めない」とコメントしています。

自衛官は任官にあたって次のような服務の宣誓をします。

私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、(・・・中略・・・)、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います。

自衛官は「わが国の平和と独立を守る」という使命のために命をかけることが期待されてきました。日本と無関係の遠く離れた国の戦争に命をかけることは、以前は期待されていなかったわけです。

国連のPKO活動といった平和のための活動であれば、命をかける意味があるかもしれません。しかし、日本から遠く離れた国の直接関係のない国際紛争に参戦して命をかけるのは、自衛隊の人たちだって嫌だと思います。

現職の自衛官でも、日本を守るためなら命をかけてもいいが、遠く離れた国の戦場で命をかけるのは嫌だ、という人は多いのではないでしょうか。防衛大学の卒業生でさえ任官拒否が増えているということは、一般の高卒や大卒の自衛隊員の新規採用は今よりむずかしくなるかもしれません。

安保法制のせいで、自衛隊に志願する若者が減り、自衛隊の定員が満たせなくなり、抑止力が低下するという可能性も否定できません。安倍政権は安保法制で抑止力が向上すると喧伝してきましたが、実際には逆効果になりかねないことの証左のひとつだと思います。

*出典:2016年3月20日付け西日本新聞(朝刊)「防衛大生の任官拒否2倍」