原発ゼロの必然:自然エネルギー革命

立憲民主党は「1日も早く原発ゼロへ」という公約をかかげ、民進党の「2030年代原発ゼロ」よりも踏み込みました。原発が安全でないことは周知の事実ですが、低コストでないことも明らかになってきました。世界では原発の新設は減りつつあり、いま世界では「自然エネルギー革命」と呼んでよい大きな変化が起きています。

近年 風力発電と太陽光発電のコストが安くなり、自然エネルギーによる発電が急増しています。2015年には世界の風力発電の設備容量が、原子力発電の設備容量を超えました。2005年から10年間で世界の風力発電の設備容量は7倍に増えました。また、2016年末には太陽光発電の設備容量が、原子力発電の設備容量にほぼ並びました。日本ではいまだに「自然エネルギーは高い」と思われがちです。しかし、世界では「自然エネルギーは安い」というのが、新しい常識となりつつあります。風力や太陽光の発電コストは、他の発電コストと同等以下になりました。

2015年に世界で導入された新規発電設備の6割は自然エネルギーでした。エネルギーの主流は、火力発電や原子力発電から自然エネルギーへ転換しつつあります。2015年末時点の自然エネルギー発電は、世界の電力供給の約23.7%を占めました。2015年に世界経済は成長したにも関わらず、CO2排出量は前年並みでした。自然エネルギーの普及のおかげで、経済成長とCO2抑制の両立が少しずつ実現しつつあります。

欧州連合(EU)は2007年に「2020年に総発電量の20%を自然エネルギーとする」という目標を打ち出しました。当時は「そんなに野心的な目標はムリだ」と言われていました。しかし、2013年にはEUの28か国ですでに総発電量の25.4%が自然エネルギーとなり、目標を大幅に前倒しして達成しました。EUの事例は、強い政治的意志や制度的な支援があれば、自然エネルギーの普及を加速することは可能であることを示しています。

日本でも民主党政権下の2012年にスタートした「固定価格買い取り制度(FIT)」により自然エネルギーが急増しています。2015年の日本の自然エネルギー投資額は世界第3位の362億ドル(約4兆円)でした。しかし、日本の自然エネルギー発電の割合は、5年前の約10%に比べれば急増していますが、2015年段階で14.5%に過ぎず、世界平均の23.7%には遠くおよびません。

日本で一番伸びているのは太陽光発電ですが、その他に風力発電、地熱発電、バイオマス発電、小規模水力発電なども伸びる余地があります。九州電力は最先端の地熱発電技術で世界的に有名です。温泉や火山の多い九州地方は、地熱発電に適しています。小規模水力発電は、既存のかんがい用水路に設置できるような小型のものであれば環境への悪影響もありません。

自然エネルギー発電の方が火力発電より少々高コストだとしても、「どこにお金が落ちるか」という観点から自然エネルギーの導入を正当化できます。火力発電では化石燃料の輸入費が主なコストです。火力発電費用の相当部分は、ペルシア湾岸産油国の収入になります。サウジアラビアやイランといった産油国が、どれだけ武器を購入し、紛争に介入しているかを考えれば、私たちが払った石油の購入代金は非常に残念な使われ方をしていることは明らかです。

しかし、太陽光発電や風力発電では、地元の工事業者や発電事業者にお金が落ち、お金が地域の中で循環します。自然エネルギー事業者は、地場の中小企業も多く、地域の雇用創出につながります。自然エネルギーは維持管理に人手がかかるので、長期にわたって雇用を生み出します。エネルギーの地産地消が進めば、自然エネルギー産業は農業や建設業に匹敵する地域密着型産業になります。ドイツでは畜産農家がバイオマス発電を行い、「畜産とバイオマス発電の兼業農家」となって現金収入を増やしている例もあります。自然エネルギーは農漁村や離島の地域振興や現金収入増加に役立ち、地域経済活性化の起爆剤になる可能性があります。

さらに、自然エネルギーの普及は、CO2削減と地球温暖化防止に貢献します。火力発電に比べてクリーンな点も重要です。環境への影響が少ないという一点だけでも、自然エネルギーを推進する十分な理由になります。

加えて、ペルシア湾の政情不安、インド洋やマラッカ海峡の海賊、原油価格の高騰といったリスクを考えれば、エネルギー安全保障の観点からも自然エネルギーは重要です。火力発電の化石燃料は高騰することがありますが、太陽光や風力は無料です。

災害に強いのも自然エネルギーの長所のひとつです。東日本大震災で東北地方の送電網が破壊されたときに、青森県六ケ所村の風力発電の実証実験地区だけは夜も光が灯っていました。当時の衛星写真を見ると真っ暗な東北地方のなかで六ケ所村だけがあかるく光っていたそうです。自立分散型の自然エネルギー電力システムは、災害時のライフライン維持に役立ちます。

世界で進む「自然エネルギー革命」に日本も後れるわけにはいきません。短期的には自然エネルギー増加はコスト増につながりますが、技術進歩や普及により費用は低減します。地球温暖化対策、エネルギー安全保障、地域経済の活性化といった総合的な観点から、国を挙げて自然エネルギーの普及に取り組むべきです。

しかし、経産省は、いまだに原発再稼働に固執し、さらに原発を輸出して外貨を稼ごうとしています。経産省は、原発再稼働を優先して、自然エネルギーにはそれほど熱心ではありません。経産省の時代おくれの感覚は、安倍総理の感性にぴったりです。安倍総理の最側近とされる今井首席秘書官が経産官僚であることに象徴されるように、経産省の官僚が安倍政権の政策決定に強く関与しています。脱原発と自然エネルギー推進の観点からも、安倍総理にはこの選挙で退場してもらわなくてはいけません。