世界大学放浪記

教育学専攻ということもあり、大学で教育を受けるのも、大学生を教育するのも、教育政策を考えるのも好きです。大学と名のつくところで学業に専念したのは5年半ですが、その間に3か国の大学で学びました。

最初は国際基督教大学(ICU)です。ICUの3年生のときに交換留学でフィリピンの大学に留学しました。そしてJICAやNGOで働いた後に、ロンドン大学の大学院修士課程に留学しました。また、衆議院議員を3期(約9年)務めた後には、北海道大学で非常勤講師として大学院生を教えました。

1.  国際基督教大学(ICU)

高校生の頃から「発展途上国の貧困問題や難民問題、環境問題に関わる仕事に就く」という目標を持ち、国際基督教大学(ICU)の国際関係学科で学びました。最近は皇室のプリンセスお二人がICUで学ばれたこともあり、世間のICUのイメージもよくなったように思います。

しかし、私が高校生のころは、少なくとも福岡県ではICUの知名度は低かったです。当時は、同じ「ICU」といっても「集中治療室(Intensive Care Unit)」の方が有名でした。母が知り合いに「息子が国際基督教大学に行く」と言ったところ、希望の大学に全部落ちてやむを得ずICUに進学することになったと誤解され同情されて「長い人生、いろいろあるさ」となぐさめられたそうです。さらに「康一君は、牧師さんになるとね?」と言われたそうです。また、先輩のお母さんは、息子のICU合格をよろこび泣きながら「息子がICUに入った」と親戚に伝えたところ、「どこの病院ですか?」と聞かれ、命の心配をされたそうです。

福岡では知名度の低いICUで学びたかった理由は、国際関係や途上国問題に強い教員が多く、交換留学の機会が多いためでした。入学して最初に受けた授業は、「平和研究」と「環境と開発」でした。途上国の貧困や環境破壊の現状を自分の目で見てみたいと思い、大学2年生の夏休みにOISCAというNGOの「フィリピン30日間植林ボランティア」に参加しました。続いて、大学3年生のときに交換留学でフィリピンの大学で学びました。卒業論文もフィリピンにおけるODAプロジェクトを取り上げました。

2.  シリマン大学(Silliman University) http://su.edu.ph/

フィリピンで留学したのはシリマン大学(Silliman University)でした。フィリピン中部のネグロス島にあり、フィリピンでは珍しいプロテスタント系の大学でした。ネグロス島は別名「サトウキビと飢餓の島」と呼ばれ、サトウキビの大プランテーションもあり、貧しい農民が多く、共産ゲリラも出没する島でした。ネグロス島では日本人NGO職員が、ゲリラに誘拐される事件も起きました。そういうフィリピンの僻地で1年間を過ごしました。

学生寮は4人部屋でルームメートはもちろんフィリピン人。いちばん仲の良かったルームメートで年下のクリス君は、大学卒業後にアメリカの大学の修士課程に留学しようとしました。しかし、大学から「財政的に責任を持てる保証人がいないと入学許可を与えない」と言われ困っていました。その頃、私はすでに社会人になっていて多少の貯金があったので、東京三菱銀行(当時)で英文の残高証明書を発給してもらい、クリスのアメリカ留学中の保証人になりました。最終的にはクリスは大学から奨学金をもらえたので、私は保証人になったけれど、1ドルも負担せずに済みました。結果オーライでしたが、ヒヤヒヤしました。

シリマン大学で受講したのは、「フィリピンにおける社会学」、「外国人のためのフィリピン語入門」、「ソーシャル・ワーク」、「東アジア史」など。正直言って「ソーシャル・ワーク」がどういうものかも知らずに受講しましたが、ギリシア系アメリカ人女性の教授は、とてもやさしく志の高い人で、授業は興味深かったです。

留学中の2学期のうち、前期は単位を集中的に取得し、卒業の要件を満たすことに力を入れました。後期はあまり授業には出ず、隣のミンダナオ島のOISCAの植林プロジェクト(アグロ・フォレストリーセンター)で今風にいえば「インターン」をさせてもらいました。実際には役に立たない大学生(=私)が、プロジェクトサイトの宿舎兼事務所でゴロゴロしていただけです。そういう日本人が私のほかに2名いましたが、フィリピン人スタッフに比べて役に立ちません。ただでご飯を食べさせてもらった上に、植林や農業について教えてもらっただけでした。いい勉強になりましたが、申し訳ない気持ちでした。

3.ロンドン大学(University of London)

大学卒業後はJICA(国際協力機構)に就職し、フィリピンを含む東南アジアへの技術協力に関わりました。フィリピンやタイ、インドネシアの大学への研究協力を担当し、日本人研究者の派遣や研修員受け入れにたずさわりました。そのころ教育政策への関心が芽生えました。

大学生のころは「貧困をなくすには、経済成長が大切だ」とシンプルに考え、経済学(開発経済学)を学びました。それでは「どうやったら経済成長するか」とさらに掘り下げて考えると、「人材の質を高めること」、「教育や職業訓練を強化すること」がその答えだと考えるようになりました。特に基礎教育(小学校教育、識字教育)や女子教育に関心を持ちました。

そこでロンドン大学の教育研究所(Institute of Education)の「教育と国際開発」という修士コースに入りました。援助機関(JICAやユニセフ、ユネスコ、NGO等)のスタッフや途上国の教育行政官を訓練するための実践的なコースでした。日本人ではJICA関係者や青年海外協力隊OB/OGが留学していました。このところユニセフの教育部門トップは、わが母校出身者が3代続いているそうです。教育援助の分野では、メジャーな大学です。研修旅行でパリのユネスコ本部に行ったのも良い思い出です。蛇足ながら、イギリスの大学評価機関のクアクアレリ・シモンズ社の学科別のランキングにおいて、ロンドン大学教育研究所は教育分野の世界ランキング1位です(出典:http://www.topuniversities.com/universities/ucl-institute-education/postgrad)。

ロンドン大学では、紛争後の教育システムの復興や教育分野の緊急援助について学びました。修士論文のテーマは「東チモールとルワンダにおける紛争後の教育システムの復興」でした。大量虐殺(ルワンダ)や独立紛争(東チモール)で壊滅的な打撃を受けた教育システムをどうやって復興・開発するか、というマニアックなテーマでした。また、イギリスに長期滞在してみると、イギリス式の教育行政やイギリスの社会、イギリス人的な思考パターンや歴史観等が、多少わかるようになったのも収穫のひとつです。

4.北海道大学

衆議院議員を3期(約9年)務め、2014年に落選して自由の身になったとき、北海道大学の公共政策大学院で非常勤講師として教える機会をいただきました。教えた科目は「国際協力論」でした。修士課程の学生に対して、JICAやNGOの経験、衆議院議員として外交政策・ODA政策に関わった経験を踏まえ、実務的な内容の講義を15回(1回90分)受け持たせてもらいました。大学で単発の講演やゲストスピーカーとして話したことは何度もありましたが、連続で15回も講義するのは初めての経験でした。教えることの難しさを知り、採点のつらさを知りました。まじめで優秀な学生が多かったのですが、大学の規定で成績のつけ方が決まっています。みんなに「A」評価をあげたい気持ちでしたが、相対評価なのでそうはいきません。やむなく「B」にした学生には申し訳ない気持ちです。

北海道大学は、札幌のど真ん中にありながら、広大できれいなキャンパスです。学生たちがキャンパス内でジンギスカンをしていたのには驚きました。北大の学生は全般にまじめで優秀です。そのかわり、ちょっとおとなしい印象を受けました。授業中はあまり質問しないので、「本当にわかっているのかな?」と心配になりました。しかし、レポートを書かせてみるとちゃんと理解していることがわかりました。謙虚で真面目、奥ゆかしいのが、典型的な北大生なのかもしれません。

教えるのは、かなり疲れました。90分の授業を用意するのに、何時間もかかります。配布資料をつくったり、課題を考えたり、講義メモをつくったりと、意外に時間がかかります。最新のデータを調べたりするのにも時間と手間がかかります。15回の講義のために、おそらく二百時間くらいかけました。報酬は微々たるもので、時給換算だと数百円(時給300円くらい?)だと思います。金銭的には割に合わない仕事ですが、教える過程がとても勉強になりました。また、大学で教えることの難しさと楽しさを知ることができて、貴重な体験でした。機会があったら、また大学で教えたいと思います。今度はもう少し上手に教えられると思います。

いろんな大学で学びましたが、いちばん人生経験を積んだのはフィリピンの大学、いちばん苦労したのはロンドン大学、いちばん勉強したのは北海道大学、いちばん楽しかったのはICUという感じでした。自分の娘たちには、楽しかったICUではなく、苦労したロンドン大学を薦めたいと思います。人間、楽をしてはいけません。

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