講演録「政治の世界の右と左とは?」

先日、主催者から「早口過ぎる」とか「内容を詰め込み過ぎだ」と言われた勉強会の第2回目を開催しました。前回のテーマは「トランプ政治」でしたが、今回のテーマは「政治の右と左とは?」という政治用語の解説です。

政治に関心を持ち始めたばかりの人にとっては、「右」とか、「左」とか、「リベラル」とか、「保守」とか、そもそも意味がわからないという声がありました。3・11や安保法制をきっかけに政治に関心を持ち始めた若い世代は、冷戦期の政治対立とかや自民党一党支配の55年体制も知りません。そういう人たちに「政治で使われる主な用語を説明しよう」という趣旨でした。いわば「政治用語の基礎知識」という講義でした。

予定時間は2時間(質疑も含めて結局3時間におよびました)で、主要な政治思想や流れを解説するのはムリがあります。やはり前回同様に「詰め込み過ぎ」が発生し、初心者には濃すぎる内容だったかもしれません。カルピスの原液を一気飲みさせるような強引な講演になってしまいました。概要はこんな感じです。

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1.政治の「右」と「左」とは?

  • 由来:フランス革命後の国民議会で右側に保守派、左側に革新・急進派が座ったから。
  • 右と左の対立軸=所得格差を縮小する(平等志向=左派)VS 放置する(自由志向=右派)という図式。
    ⇒ 格差と分配(税)の問題は政治の中心課題。「代表なくして課税なし」(米国独立戦争)と言われるほど、税は政治の中心課題。
  • 自由と平等は両立しない(トレードオフの関係)。自由競争すれば格差は広がる。分配の平等を追求すれば、自由は制限される。フランス革命「自由、平等、博愛」には矛盾があるが、バランスが大切。
  • 左派の前提=人間は平等。すべての人が人間らしい暮らしをする権利がある。
    (1)極端な左派=共産主義や社会主義 ⇒ 国家権力で強制的に平等化。市場より統制経済。統制経済では官僚が力を持つ。旧ソ連や昔の中国。
    (2)穏健な左派=社会民主主義(欧州)やリベラル(米国)⇒ 一定の政府介入で平等化を実現する。市場の役割は重視する。
  • 右派の前提=自由放任。人は能力も個性も異なり、格差があるのは当然と考える。人や企業活動の自由を重視する。

2.共産主義(社会主義)、保守主義などの用語解説

  • 共産主義(社会主義):理想主義。計画・統制経済。市場原理を否定。設計主義(社会をエリートが設計できるという発想)。冷戦後にほぼ消滅。
  • 保守主義:現実主義。人間の理性への懐疑。慎重さと熟慮を重視。歴史や習慣を尊重し、漸進的に社会を改良。設計主義を否定。ときに思考停止の恐れ。
  • 自由主義:政治的自由を重視(参政権、言論、表現、所有権)。愚行権(人に迷惑をかけない限り、何でも自由できる)を尊重。王政への反発が起源。
  • リベラリズム(米国):政治的な自由を重視。単なる自由放任ではなく、福祉や教育等で政府が介入して格差を是正する。社会権を重視。
  • 社会民主主義(欧州):欧州の福祉国家モデル。リベラリズムと似たような考え方。社会主義の影響を受けつつも、市場経済は否定しない。大きな政府。
  • 新自由主義:自由貿易や市場経済を重視。小さな政府。グローバル化と親和的。ネオリベラルとも呼ばれる。冷戦後に世界を席巻。格差拡大を助長。
  • 英国の二大政党の変遷:19世紀の二大政党 = 保守党 VS 自由党、 20世紀の二大政党 = 保守党 VS 労働党。社会主義勢力の台頭に対抗し、保守主義と自由主義が共闘するようになった。しかし、もともとは保守主義と自由主義は対立する考え方だった。
  • 戦後の冷戦構造:西側(保守主義、自由主義、社会民主主義)VS 東側(共産主義)。欧州では社会民主主義の政権でも西側陣営の一部として行動し、旧ソ連と対抗した。
  • 西側=米国、西欧(英独仏等)、日本、豪州等。
  • 東側=ソ連、東欧、中国(ある時期まで)等。中ソ対立で東側は分裂。

3.戦後の日本政治の流れ

  • 55年体制下の日本の特殊性(欧米との差異):右派(自民党)も比較的平等志向。左派(革新=社会党、共産党)は護憲(憲法9条)を重視。
  • 55年体制下の対立軸:保守陣営(自民党)VS 革新陣営(社会党、共産党)、プラス中道政党(民社党、公明党)
  • 55年体制:自民党と社会党の「国対政治」。分配の政治。コンセンサス政治。自民党政権が、社会民主主義的(左派的)な政策を採用してきた。
  • 保守内部の2つの潮流(共通点:日米安保重視、親米保守、経済重視)
    (1)保守本流:吉田ドクトリン(経済重視+軽武装)、ハト派(軽武装)、国際協調、憲法改正の議論は棚上げ、宏池会や田中派、利益誘導政治の本流
    (2)保守傍流:戦前回帰(復古的思想)、タカ派(軍事重視)、憲法改正を主張、岸派の流れ(安倍首相の祖父)
  • 1990年代(冷戦後)の対立軸:守旧派(小沢一郎氏の造語)VS 改革派・市民派という図式。主要な対立軸が、イデオロギー対立ではなくなった。
  • 55年体制の最後=自社さ政権(村山富市首相=社会党党首)。戦争への反省。社会党が自衛隊や日米同盟を認めたことで、55年体制の前提が壊れた。
  • 右傾化(右派転換):冷戦終結後の過去30年ほどの世界的潮流(サッチャーのNew Right)
  • リベラル・コンセンサス:保守と革新の政策的な歩み寄り(例:ブレアの労働党、キャメロンの保守党)。二大政党が似てくる。市場を重視。

4.最近の日本の右と左の対立軸

  • 右派:① 格差容認、② 復古的国家主義、③ 家父長的家族観、④ 軍事重視、⑤ 歴史修正主義
  • 左派:① 平等志向、② 人権や自由を尊重、③ 個人を尊重、多様性を重視、④ 平和主義(軽武装)、⑤ 過去の戦争への反省
  • 民主党政権時代に下野した自民党は、利益誘導に代わる動員手段として日本会議等の草の根右派に依存。自民党の右傾化が加速した。
  • 「新右派連合」(中野晃一氏の造語)=新自由主義勢力(経済界)+復古的国家主義者(日本会議等)の連合。グローバル企業と排他的ナショナリストの連合体という不思議さ。
    (例:安倍政権の教育再生)① 教育の市場化・企業化、グローバル化、および、② 復古的な教育改革(道徳教育や愛国心教育)が同時並行で進む。

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政治学の専門家からすれば、ずいぶんと雑な議論だとお叱りを受けそうな内容です。しかし、初心者向けのわかりやすさを重視して、かなり単純化して紹介しました。なるべく中立的であろうと努力しましたが、第三者から見ればやはり偏っているかもしれません。

レジメを見直してみると、詰め込み過ぎなのは明らかでした。ふつうの講師が1時間で10くらいのポイントを話すとすれば、私は1時間で50くらいのポイントを早口で話している気がします。意味的に密度の濃い内容を早口で一気にまくしたてるので、話し終わった時はヘトヘトです。真剣に聞いてくれる人もヘトヘトになるそうです。

もう二度と会わないかもしれない聴衆を相手にすると、なるべく多くの情報やメッセージを伝えたいと意気込んでしまいます。その結果、ついつい詰め込み過ぎます。「ゆとり教育」世代には厳しいかもしれません。夜の19時から21時という時間帯で夕食直後にも関わらず、だれも寝ていませんでした。寝る間もないくらいのスピードで話し続けたのかもしれません。講演の準備をするのも疲れるし、話すのも疲れます。聞く方も疲れたと思います。このブログをお読みの方もお疲れだと思います。

この勉強会も2回で終了です。次の勉強会は別の団体の主催で4月に「国際協力はなぜ必要か?」というテーマでお話しします。次こそは詰め込み過ぎず、ゆっくり話すように心がけようと思います。毎回同じ反省をしているということは、まったく学習していないということです。反省が足りないのを反省しています。