世界的な新自由主義の退潮とこれからの日本

いま朝の駅で配っているチラシの内容です。電車通勤以外の皆さまのため、転載させていただきます。ご一読いただければさいわいです。


世界的な新自由主義の退潮とこれからの日本

英国のEU離脱、米国のトランプ大統領誕生、英仏の総選挙など、世界で大きな変化が起きています。グローバル化への反発がEU離脱やトランプ大統領の内向き政策につながりました。新自由主義的な「小さな政府」路線による緊縮財政が、格差の拡大と中間層の没落を招き、ポピュリズムや右傾化を引き起こしました。

英国総選挙では、緊縮財政一本やりの「小さな政府」志向の保守党が議席を減らし、労働党が躍進しました。サッチャー首相が始めた新自由主義は、英国から世界に広まりましたが、その英国で新自由主義への反発が高まっています。労働党が支持を増やしたのは、公的サービスの充実や再分配政策の強化を訴え、「脱・新自由主義」的な公約を掲げた結果でした。

グローバル企業は、国民生活や格差問題には無関心です。格差の拡大を防ぎ、教育や環境保全に投資し、老後の暮らしや国民生活を守るのは政府です。グローバル化が進めば進むほど、政府の役割が再び重要になります。世界では「政府の復権」が進んでいます。

一方、安倍政権は新自由主義的な政策を継続して経済成長を最優先し、国民の暮らしや格差問題への対応には力を入れていません。その結果、日本は先進国のなかでも相対的貧困率の高い国になり、子どもの貧困は深刻な問題です。「小さな政府」へ突き進む過程で、福祉や教育の予算はカットされ、社会的セーフティネットに穴があき、将来の不安に脅えながら貯蓄に励むのが当然という社会になりました。政府がセーフティネットを提供しないから、民間保険が繁盛し、自己責任であらゆるリスクに備えなくてはいけない社会になってしまいました。「小さな政府」とは、裏を返せば「何でも自己責任社会」です。自己責任社会とは、将来が不安な社会です。

安倍政権がこの4年半に進めてきた経済政策

日本経済新聞のアベノミクス検証記事(2017年6月10日朝刊)から引用しながら、安倍政権4年半の経済政策をふり返ります。記事の見出しは「アベノミクス5年 経済の力低下」でした。安倍政権が喧伝しているのと異なり、潜在成長率が0.69%と低迷しています。株価は上昇しても、実質経済成長率は低い状態です。日経新聞は、法人実効税率を7%下げた点を評価しつつも、「減税などで収益力は高まったが、企業はカネをため込む一方。3月末で企業の内部留保も390兆円と政権発足時から4割増加。内部留保解消の有効策は見えない」と手厳しいです。法人減税や円安により大企業の株価や収益力は上がりましたが、内部留保が増えるばかりで、労働者の実質賃金は上がりません。一部の企業や富裕層は潤っても、多くの国民の生活は豊かになっていません。

さらにBNPパリバ証券の河野龍太郎氏の「極端な財政出動などが経済の資源配分をゆがめ、生産性を落とした」というコメントを引いて、経済が成長しない理由を説明します。財政出動による公共事業のばらまきは、借金と維持管理費の負担増になり、将来世代にツケを残します。公共事業に投資しても経済が成長しないことは1990年代の経験から明らかです。アベノミクスの柱の財政出動は、昔ながら自民党的な利益誘導政治の復権です。政権中枢を担う経産官僚が進める補助金と企業減税による「通産省型産業政策」はうまく行っていません。金融緩和(低金利政策)により不動産業界はプチバブル状態です。これも資源配分のゆがみです。人口減少時代に異常なペースで新築住宅を増やせば、空き家が増え、近い将来に副作用が出るでしょう。

さらに日経新聞は「ほぼ落第点に近い評価が社会保障改革と財政健全化だ。選挙を前に増税を先送りしたり、社会保障の充実を約束したりする『選挙優先』で取り組みが遅れている。」と辛らつです。安倍政権は「増税はしない、社会保障は充実させる」と耳に心地よくても矛盾した方向性を示しています。増税をしないなら医療費や社会保険料の自己負担が増えて当然です。

 

アベノミクス敗戦後の「脱・新自由主義」政策へ

今こそ「アベノミクス敗戦」に備える必要があります。世界的潮流である「脱・新自由主義」を具体化する、アベノミクスに代わる政策体系が必要です。キーワードは、①社会的セーフティネットの再構築②再分配政策の強化③政府の役割の再定義 だと思います。

例えば、21世紀の知識社会・知識経済における経済成長には、コンクリートの公共投資よりも、人材への投資が有効です。公共事業よりも、サービス産業や公的サービス(教育、保育、医療、介護、障がい者支援等)に力を入れるべきです。近ごろ「AI(人工知能)でなくなる仕事」が話題です。最先端の製造業ほど、働いているのはロボットばかりになり、労働者は減ります。対人サービスで安定した雇用をつくり出す必要があります。対人サービスはAIやロボットでは代替できない仕事が大半です。教育や保育、介護や医療等の分野では、これからも「人が人のお世話をする」というやり方は変わりません。対人サービスに財政資金を投入し、政府が人材育成を担うべきです。結果的にそのことが暮らしの安心と経済成長につながります。