「日本型マニフェスト」からの脱却

民進党は、こんどの参議院選挙から選挙公約を「マニフェスト」と呼ばないことにしたそうです。正しい判断です。

いわゆる「マニフェスト」と呼ばれているものは、日本で独特の進化を遂げました。いわば「日本型マニフェスト」は、本家のイギリスのマニフェストとはちがうものになってしまいました。

前々回のイギリス下院議員選挙のときの保守党、労働党、自由民主党のマニフェストをホームページからダウンロードして印刷し、読み比べてみたことがあります。イギリスのマニフェストにも数値目標は入っていますが、そんなに多くありません。財源や工程表はなかったと思います。

イギリスのマニフェストは、むしろ「ストーリー」というか、「ビジョン」というか、政策理念を中心に記述されています。けっこう分厚い文書でした。分厚いけれども、ストーリー性と一貫性があるので、イメージが浮かびやすい気がします。

それに対して「日本版マニフェスト」は、箇条書きの政策集がついているほか、数値目標、達成期限、財源等が細かく記載される傾向があります。日本では、政策実施の工程表をつけるのがよいとされます。建設工事のプロジェクトマネジメント的な発想のマニフェストが、理想視されているように思います。

しかし、マニフェストをやたらと詳細にして工程表までつくり、それを厳守して実現しようとするのは、旧共産圏の「国家開発5か年計画」みたいなものだと思います。世界情勢や自然災害など予測できない要素がたくさんあるのが、現実の世の中です。3~4年先まで正確に予測できる人はいません。硬直的な「日本型マニフェスト」では、柔軟な対応ができなくなります。

また、国会対応にあたって「マニフェストで約束したことは全部実現しないといけない」となれば、野党の意見を聴かず、強行採決するのが通例になります。与野党で話し合いながら、専門家や利害関係者、NPO等の声を聴きながら、政策を柔軟に修正していくのは、現実の政治の世界では大切なことです。

捕らぬ狸の皮算用ですが、仮に次の衆議院選挙で民進党政権が成立したとしても、おそらく参議院の過半数はないので、衆参がねじれることになります。衆参がねじれた場合には、与野党で話し合いながら法案を修正することが常態化します。野党の意見を取り入れながら政策を実現しようとすれば、「日本型マニフェスト」で約束した政策を修正する場面が増えるはずです。「日本型マニフェスト」で約束した細かな公約を修正するたびに「ブレた」と批判されるのでは、熟議の国会など成り立ちません。

本家のイギリスのマニフェストのように「どんな社会をめざすのか」というビジョンやストーリーを重視した選挙公約の方がよいと思います。選挙のときには、民進党は「格差の小さな共生社会、国際協調路線の平和外交を目指します」といった大きな方向性を示すことの方が重要だと思います。

短期的なプロジェクトマネジメントのような発想の「日本型マニフェスト」から卒業し、本家のイギリス型(政策理念中心型)のマニフェストをめざすべきだと思います。その第一歩として手垢のついた「マニフェスト」という言葉を捨てるのは、よいアイデアだと思います。どういう名称がいいのかわかりませんが、とりあえず「日本型マニフェスト」はやめにしてよかったと思います。

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