自民党に政権担当能力があるのか?【前編:安倍・菅政権のコロナ対応】

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安倍総理が「悪夢のような民主党政権」とレッテルを貼って批判し続けてきたことも功を奏してか、しばしば「野党には政権担当能力がない」とのご批判を受けます。では素朴な質問です。いまの自民党に政権担当能力があるのでしょうか?

 

安倍政権のコロナ対応

安倍政権の特徴のひとつは官邸主導でした。コロナ対応でも官邸主導(=官邸官僚主導)が目立ちました。危機にあたって首相が主導すること自体は否定されるべきではありません。しかし、単なる「官邸官僚の思いつき」レベルの対応策が多かったことが問題です。

例としてすぐに思い浮かぶのは、いわゆる「アベノマスク」です。安倍総理側近の官邸官僚(経産省から出向)の発案といわれています。ここでも主管の厚生労働省の影は見えません。アベノマスクの予算は466億円でした(見積りがいい加減で、実際はずっと少ない予算で済んだようです。)。皆さんも届いたアベノマスクを見てビックリされたと思いますが、大人の口をおおうには小さすぎて役に立ちませんでした。街でアベノマスクをしている人を見たことがありません。あきらかに誤った政策であり、税金のムダ使いでした。

唐突な学校一斉休校も無意味だったと多くの専門家が指摘しています。子どもたちの教育を受ける権利を安易に侵害し、教育現場と子を持つ家庭に大混乱をもたらし、実利はなかったといえます。これも文部科学省には相談せずに官邸主導で決定されました。全国一斉に学校を休校にする必要はありませんでした。そもそも総理大臣には学校休校を要請する権限がなく、休校の是非は地方自治体の教育委員会の権限であり、脱法的な要請でした。今月の菅政権の緊急事態宣言では学校一斉休校は求められませんでした。昨年の全国の学校一斉休校が無意味だったことを政府も認めたかたちです。

昨年春ごろまで厚生労働省は「37.5℃以上の発熱が4日以上」という条件をクリアしないとPCR検査を受けられないという基準を設けていました。当時は「PCR検査を増やすと医療崩壊が起きる」という論調がありました。しかし、ふり返ってみるとPCR検査の検査数を増やすことに全力を尽くすべきでした。和歌山県知事は、厚生労働省の助言に従わず、積極的にPCR検査を実施し、感染者数の拡大を抑え込むことに成功しました。

経済対策としてGo Toトラベル、Go To Eatキャンペーンが実施されました。一定の経済効果があったことは確かです。しかし、感染症拡大防止の観点からいえば、税金を投じて不要不急の外出を推奨する政策が正しかったのか疑問です。このような政策は世界でも珍しく、賢明な政策だったかを検証する必要があります。事業者の支援や雇用の確保という観点からは、手厚く休業補償を行う方が合理的だったと思います。

 

菅政権のコロナ対策とプライオリティ

昨年9月16日に就任した菅総理が最初に目玉政策として取り組んだのは、ハンコの廃止、デジタル庁の設立、携帯電話料金の値下げでした。冬になれば再び新型コロナウイルスが流行することは容易に想像できましたが、あえて脱ハンコやデジタル庁設置、携帯電話料金値下げに政治的資源(時間や労力を含む)を優先的に投じた判断は大いに疑問です。どれも平時にやればよい政策課題です。検査体制の充実や医療機関の財政支援に全力で取りくむべき時期に時間と政治的エネルギーを浪費しました。

臨時国会の開会は首相就任後1か月以上たった10月26日でした。コロナ危機のさなかに長期にわたって国会を閉じていたのは問題です。国会で議論すべきテーマはたくさんありました。また、臨時国会の開会直前に首相就任後初の外遊としてベトナム・インドネシアを訪問しました。ベトナムもインドネシアも日本との関係はきわめて良好であり、今すぐ解決すべき差し迫った課題はなく、不要不急の外遊といってよいでしょう。

さらに安倍政権時代に官房長官として取り組んだGo Toキャンペーンに固執し、コロナ感染拡大の第3波のなかでもGo Toキャンペーンの一時停止の決断が遅れ、感染拡大を放置しました。経済優先のツケが感染爆発であり、その結果としてさらに経済が悪化するという悪循環です。

菅総理の優先順位の決め方には問題があります。ピーター・ドラッカーは次のようにいいます。

有能なリーダーは、やりたいことから始めない、何をする必要があるのかを問う。自分がやりたいことへの誘惑に打ち克ち、いますべきことに集中する。

菅総理は「やりたいことから始め」、「いまやるべきことに集中する」ことができない総理大臣のようです。ドラッカーの「有能なリーダー」の定義から外れます。

菅総理は理念や政治哲学を語ることがありません。ふるさと納税とか、携帯電話料金の値下げとか、ハンコ廃止とか、わかりやすい具体策はお好きです。しかし、大きな方向性を示す言葉は貧困です。「着眼大局・着手小局」という言葉がありますが、菅総理の場合は「着眼小局・着手小局」です。大局観に欠けます。

英国のチャーチル首相のように危機の時代の宰相には「言葉のちから」が求められます。それが決定的に欠けているのも菅総理の特徴です。官僚の書いた原稿を棒読みし、ときには棒読みすら正確にできずに読み違え頻発というのでは、日本国を代表する政治家としてはちょっと残念です。チャーチル首相は、重要な原稿は自分で推敲を重ねて書き、何度も演説の練習をしたといわれています(*チャーチルは子どものころ吃音でしたが、努力で克服しました。お坊ちゃん育ちですが、何度も落選した苦労人でした。)。自分の言葉で話すには準備が必要です。原稿執筆や演説の練習だけでなく、若いころから本を読んで教養を深め、語彙を増やして自分の言葉を磨くといった不断の努力も必要です。国政を担うための技術、英語で言う「“statecraft”=国政術」を学ぶことも必要です。

菅総理には首相をめざす人が当然積むべき自己研鑽を行ってきた様子がうかがえません。菅総理には自分の言葉がありません。めずらしく自分の言葉を発したのが、インターネット番組で「ガースーです」と自己紹介した時くらいではないでしょうか(*おそらく官僚が書いた原稿ではないでしょう)。一国の宰相にふさわしい政治家ではないことが、一国の宰相になった後に明白になり、国民にとっては不幸なことです。菅総理を圧倒的な支持で自民党総裁に選んだのは自民党議員です。自民党議員は反省してほしいものです。

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