米海軍司令官「6年以内に中国が台湾侵攻」発言

日米首脳会談でも台湾について言及され、最近は台湾情勢が話題です。そのなかでも米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が3月9日米上院軍事委員会の公聴会で行った証言で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」との発言は注目されました。

この発言をどう受けとめるべきでしょうか。「可能性がある」ということでは、確かに可能性はあるでしょう。私も可能性があることは認めます。台湾侵攻の可能性は、おそらく0%でないでしょう。しかし、その可能性が10%なのか、50%なのか、95%なのかが重要です。

私は0%ではないにせよ、50%を超えることはないと思います。おそらく10~15%あたりだと思います。可能性はあるけれど、低いと私は予測します。もちろん15%でも十分脅威なので、安心できないし、危機に備えることは大切です。しかし、脅威を過大に評価すれば、誤った判断や誤った予算配分を招きます。

米海軍の現役幹部デービッドソン司令官の「可能性がある」発言には、さまざまな政治的インパクトがあります。日本の外交や安全保障にも影響は出ています。まず考えなくてはいけないのは、米国の連邦議会の証言である点です。

米国では議会が予算権を握っています。予算決定にあたり、日本では財務省主計局が重要ですが、米国では議会が重要です。したがって、米海軍は予算増額を議会に認めてほしいので、海軍力増強の根拠を強く印象づけようとするでしょう。

アフガニスタンのタリバンの脅威では、海軍の予算は増えません。アフガニスタンに海がないからです。他方、中国の海洋進出や台湾侵攻の脅威は、海軍予算増を狙うには、よい理由です。

冷戦時代に米国防総省は、一貫してソ連軍の脅威を過大評価していました。ソ連軍の実力を過大評価し、「ミサイルギャップ」などと言っては、脅威を誇張してきました。ふり返ってみると「ミサイルギャップ」など存在せず、米国はずっとソ連より優位でした。

米国の戦略国際問題研究所のエドワード・ルトワック上級顧問が、月刊誌のインタビューで次のように発言しています。大胆な発言なので割り引いて評価する必要はありますが、それでもルトワック氏の発言はある程度は真実だと思います。

昨年、アメリカの海軍大学などが台湾危機をシミュレーションして18戦18敗という結果が出たことが一部で話題になったが、彼らのシミュレーションは、連邦議会に対して、もっと艦船を購入してくれるように説得するためだけのものにすぎない。これが唯一の目的である。(中略)

アメリカの攻撃型原潜がたった三隻あれば、台湾海峡のすべての中国艦船を撃沈できる。1982年に、イギリスはフォークランド紛争を戦っていた。彼らは原潜をたった一隻だけ南大西洋に潜航させていたのだが、この潜水艦がアルゼンチン海軍を敗北せしめた。魚雷でアルゼンチン海軍最大の船「ヘネラル・ベルグラノ」を沈めたからだ。

これと同じように、アメリカが中国のすべての艦船を無力化するにはたった三隻の原潜があれば済む。ところが、先の米海軍大学のシミュレーションでは、原潜が一切考慮されていない。原潜を入れてしまうと、彼らの「ゲームの目的」すなわち米議会に対する説得材料を失うことになるからだ。

中国海軍は、潜水艦戦および対潜水艦戦に弱いことが知られています。米海軍や海上自衛隊のように洗練された潜水艦や対潜哨戒機・対潜哨戒ヘリ、対潜能力の高い護衛艦(駆逐艦)をそれほど持っていません。

弾道ミサイルや空中戦では、中国軍はかなりの脅威です。しかし、潜水艦戦や対潜水艦戦では、日米同盟が圧倒的に有利です。そのことを考えれば、ルトワック氏の見方にも一定の妥当性があるでしょう。

米インド太平洋軍のデービッドソン司令官の「6年以内に中国が台湾に侵攻」発言は、ちょっと割り引いて受け止めた方がよいと思います。可能性はゼロではないですが、可能性を過大評価しすぎないよう注意が必要です。さもないと不必要な軍拡を招き、「安全保障のジレンマ」を引き起こしてしまいます。

*参考:エドワード・ルトワック「未来の鍵を握る日本の戦略」月刊「Hanada」2021年3月号