このところの物価上昇、所得格差の拡大、実質賃金の低下、経済の低迷の責任のかなりの部分は、アベノミクスと呼ばれる経済・金融政策に起因するといえます。日銀も総裁が交代してやっとアベノミクスからの脱却の道を模索し始めました。これからの経済政策は「脱デフレ」から「脱リフレ」にシフトしていくことでしょう。
その前にアベノミクスの十年を振り返ることは有益だと思います。第二次安倍政権が発足したのが2012年12月で、終わったのが2020年9月でした。その後の菅政権もアベノミクスを継承し、岸田政権もおおむね継承しています。
まずは馴染みのある4カ国と日本の一人当たりのGDP(米国ドル建て)の2012年(アベノミクス前)と2022年を比べてみます。
– – – – 2012年 – – – – 2022年
日本 49,175ドル 33,821ドル
米国 51,736ドル 76,348ドル
ドイツ 43,883ドル 48,636ドル
韓国 25,459ドル 32,250ドル
台湾 21,256ドル 32,643ドル
日本以外のすべての国でドル建ての一人当たりGDPは増えています。驚くべきことに、日本だけがGDPが減少しています。それも大幅に減っています。現在では韓国と台湾に抜かれているはずです。
理由は二つあります。ひとつは円安誘導により、ドル建てのGDPが大きく目減りしたことです。もうひとつは、経済が成長していないことです。どちらもアベノミクスの結果です。
一部には「日本の経済が成長しないのは少子高齢化のせいだ」という見方もありますが、少子高齢化で説明できるのはごく一部です。日本より出生率の低い韓国でも経済は成長しています。
円安誘導により、石油や食料などを輸入する代金が割高になります。円安は、消費者である国民と内需型産業にとってはデメリットです。ガソリンや小麦粉の値段が上がるといった打撃を受けるのは庶民です。物価高の理由の半分は円安だといわれています。
円安による利益を受けるのは、輸出産業(主に大手の製造業)と観光業などの一部です。しかし、輸出産業も海外現地生産が増えているので、以前に比べると円安メリットは減少しています。
円安でインバウンド観光客が増えるのは良いことですが、観光公害などの弊害もあり、また日本人が海外旅行や海外留学しにくくなるというデメリットもあります。さらに円安で増える観光客は、円が高くなると日本に来なくなる恐れがあるので、為替レートに関係なく来てくれる固定客を増やす政策こそ必要です。
円安による物価上昇が、ウクライナ戦争による資源高騰(石油や食料)と合わさって、物価上昇がさらに悪化し、暮らしを直撃しています。せめて円安がなければ、だいぶダメージが軽減されたはずです。
私はずっと以前から円安誘導の弊害を訴え続けてきましたが、やっと多くの人が同じ認識を持つようになってきたと感じます。(たとえば、2018年4月18日付ブログ「アベノミクスはうまく行っているのか?【円安誘導】」)
山内 康一 | アベノミクスはうまく行っているのか? 【円安誘導】 (kou1.info)
さらにアベノミクスの十年で経済の生産性は高まらず、円安のぬるま湯につかった自動車産業はEV化の波に乗りおくれ、燃料電池車というガラパゴス自動車に過剰に投資をして、世界のトレンドから外れてしまいました。自動車産業の重要性を考えれば、まちがった方向に投資をしてきたツケは、今後大きくなることでしょう。
安倍総理と黒田総裁が表舞台からいなくなり、経済金融政策を転換する時期にきています。財政の健全化を含め、財政破綻を避けるために、できることを始めなくてはいけません。