直接民主主義の危うさ

イギリスのEU離脱問題やアメリカのトランプ大統領を見ていると、国民投票や直接民主主義の危険性をあらためて実感します。

民主主義が機能不全を起こしている時の国民投票には大きなリスクがあります。EU離脱の引き金になったのは、国民投票でした。保守党のキャメロン首相(党首)が、EU離脱の議論は国民投票をやれば簡単に否決されるだろうとよんで、国民投票の実施を決めたことがスタートでした。完全にキャメロン首相の判断ミスでした。

安易に国民投票を実施して、議会制民主主義の基盤を弱体化させました。大方の予想に反してEU離脱は可決され、世界経済に影響を与えかねない大きな混乱を巻き起こしました。多くの専門家の予測通りの大混乱です。

EU離脱の国民投票の際には、イギリス国民の過半数は離脱を支持しました。しかし、最近の世論調査によると、EU離脱反対派の割合が相当多くなっています。考えを変えたイギリス国民がかなり多いわけです。

熱狂的な雰囲気のなかで行われた国民投票時の判断と、さまざまな情報を総合して冷静になった後の判断が異なるのは、ある意味で仕方ないことかもしれません。だからこそ国民投票を安易にやるのは危険です。

歴史上もっとも国民投票を多用した政権は、ナチスドイツのヒトラー政権でした。理性の政治ではなく、情念の政治を生みやすいのが国民投票です。

十分に時間をかけて議論し、熟議に熟議を重ねたうえでの国民投票や住民投票は、ときに必要だと思います。しかし、一時の熱狂や感情で国民投票を実施すると、民意に裏付けられた専制政治が出現する恐れがあります。ナチス政権を生んだのは、当時もっとも民主的といわれたワイマール憲法でした。

かつて日本でも首相公選制が話題になったことがありましたが、私は反対です。テレビ政治とネット全盛の現在、人気投票のような公選でとんでもない首相を選んでしまうリスクは高まっています。トランプ大統領がよい例です。

アメリカのトランプ大統領の他にフィリピンやブラジルなどでも、強権的な大統領が直接選挙で選ばれる例が増えています。テレビ政治やネット政治と直接民主主義が結びつくと、民主主義が機能不全を起こしやすくなります。

議院内閣制のもとで同僚議員の投票で選出される首相の方が、直接選挙で選ばれる大統領よりも、過激な発言は少ないように感じます。日本が議院内閣制を採用したのは正解だったと思います。それでも安倍総理のようなとんでもない首相は生まれますが、トランプよりは幾分マシです。イスラエルは首相公選制を一度採用しましたが、すぐやめました。

国民投票や住民投票を全否定はしませんが、直接民主主義的なツールは使い方を誤らないように最大限の配慮が必要です。慎重に準備して、十分な議論の時間を確保したうえで、国民投票や住民投票を実施する必要があります。

冷静に判断するための時間、客観的データに基づく健全な議論、熟慮と熟議を大切にする国民とメディアが、国民投票を成功させる前提条件です。国民投票をうまく活用するには、かなりの時間、労力、知恵が必要です。

憲法改正の国民投票を実施するのであれば、CM規制をはじめ、慎重な準備が必要です。国民投票の怖さを国民は十分に知る必要があると思います。