ウソをつくことを公言する首相

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最近話題の中島岳志教授(東京工業大学)の「自民党」という本を読んで納得したというか、驚いた点があります。安倍総理について書かれた章から抜粋します。

私が注目したいのは、岸が安保条約を通すために、安保条約に厳しい態度をとっていた大野伴睦の賛成を得ようとして「次の政権を大野に譲る」という趣旨の念書を書いたという話です。この点について、親族のひとりが岸に尋ねたところ、「たしか、書いたなあ」と答えたといいます。しかし、大野への首相禅譲はなされませんでした。要は約束を反故にしたのです。

親族が「それはひどいのじゃないの」と言うと、「ひどいかもしれないが、あの念書を書かなければ安保条約はどうなっていたかな」と言ったといいます(安倍晋三「この国を守る決意」)。

このエピソードを踏まえて、安倍総理は次のように言います。

私はその後、読んだマックス・ウェーバーの『職業としての学問』で、「祖父の決断はやむを得なかった」との結論に至りました。祖父の判断は、心情倫理としては問題があります。しかし、責任倫理としては、「吉田安全保障条約を改定する」という課題を見事に成就しています。とくに政治家は、結果責任が問われます。政治家は、国益を損なうことなく、そのせめぎあいのなかでどう決断を下していくか―ということだろうと思います。(安倍晋三「この国を守る決意」)

つまり安倍総理は、マックス・ウェーバーの「心情倫理」とか「責任倫理」とか難しい言葉を使ってごまかしていますが、平たく言えば「大義があれば、ウソも許される」ということを言っているに過ぎません。

著書のなかで「政治目的を達成するためならウソも許される」と堂々と宣言しているわけで、驚きあきれます。為政者は、外交交渉などで国益を守るためにウソをつかざるを得ない状況に置かれることもあるかもしれません。あるいは、ウソをつくつもりがなくても、さまざまな理由で約束が守れなくなることもあるでしょう。しかし、堂々と「目的が正しければ、ウソも許される」と公言するのは別次元のことです。

また「目的が正しければ、ウソも許される」としても、その目的の正しさはあくまで主観的なものです。本人は正しいと信じていても、後から振り返ると正しくない可能性も十二分にあります。

そもそも「大義があれば、ウソも許される」という状況は、よほどのことがない限り発生しないと思います。そしてウソをついても許される程の差し迫った状況というのは、どの程度なのか判断が難しいと思います。

安倍総理の場合は、根底に「政治目的達成のためのウソは許される」というお祖父さん譲りの発想があるので、ウソをつく時の心理的ハードルは低いのだと思います。あるいは、最初はウソをつくのを躊躇していたとしても、慣れてくると常習性がついて麻痺して、平気でウソをつくようになる可能性もあります。

プロの詐欺師は必要最低限のウソしかつかないそうです。しかし、病的なウソつきは不必要なウソまでつくそうです。そしてウソをついても良心の呵責がないので、ケロッとしているそうです。病的なウソつきは、ウソをついている自覚さえなくなるようです。

安倍総理は、責任倫理を果たすためなら、ウソをついても許されるという思想の持ち主です。そのことはよく覚えておく必要があります。

また、一国の宰相をめざす人は「大義のためにはウソも許される」なんてことを書いた本は出版しない方がよいと思います。まちがいなく主要国の外務省や情報機関は安倍総理の著書を翻訳して本国に報告し、分析していることでしょう。そしてその分析結果は、首脳や外相に報告され、「安倍という人物はウソをつくことに心理的抵抗がない」ということがばれていることでしょう。

日本の国益を考えたら「平気でウソをつく首相」は取り替えた方がよいと思います。外交の世界では長い目で見れば、“Honesty is the best policy”(正直は最良の方策)という格言が生きていると思います。安倍外交がうまく行かないのも、正直さに欠けるせいではないかと思います。「外交の安倍」という幻想はもはや通用しません。正直で現実的な方策を打ち出せる首相に取り替えたいものです。

*参考文献:中島岳志、2019年『自民党』 スタンド・ブックス

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