映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」

地味なわりに話題になっているドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」をKBCシネマで昨日観ました。大島新監督と主演(?)の小川淳也衆議院議員がKBCシネマの舞台挨拶とトークショーに来られました。

この映画は大島監督が小川さんにほれ込み、2003年衆議院選挙以来17年間にわたって小川さんと親交を深め、そのときどきでカメラを回したドキュメンタリー映画です。

小川さんは2003年の衆院選では落選し、2005年初当選です。私とは初当選同期であり、かつ、新人議員のころは衆議院本会議場の議席が近くて何となく話すことも多く、もう15年間の長いつき合いです。

小川さんは尊敬できる畏友です。いっしょに政策の勉強会を開いて「リベラルは死なない」(井手英策編、朝日新書、2019年)という本を共著で出版したこともあります。いまも党内でいっしょに政策づくりに取り組んでいます。

そんなわけで私は小川さんを15年ほど近くで見てきたわけですが、映画に出てくる小川さんは、私からすると「いつもの小川淳也さん」という感じです。正直言って、新しい発見はほとんどありません。

小川さんご自身も大島監督とのトークショーのなかで「身近な人ほど映画を観てもあんまり感動しなかった」という趣旨のことをおっしゃっていました。

しかし、その「いつもの小川淳也さん」に多くの人が感動し、これまで政治に関心のなかった人まで「政治に希望が持てる」という感想を述べます。元文部科学事務次官の前川喜平さんや小泉今日子さんもこの映画を絶賛しています。

いま国会議員はまったく信用されていません。つい先日、河井前法務大臣夫妻が逮捕されたばかりです。今年1月には秋元司衆議院議員がカジノ汚職で逮捕されています。

衆議院の定数が465、参議院の定数が245で、合計710人の国会議員がいます。そのうち3人(衆院2人、参院1人)が逮捕されました。平均すると236.6人に1人が逮捕される職業はあんまりないです。同業者として恥ずかしい限りです。こんな状況で「政治家を信用しろ」と言っても土台無理です。

しかし、この映画を観た人の多くが、「政治への希望を見い出した」といったポジティブな感想を持たれるそうです。嘘のない映画と嘘のない主演者(=小川さん)のまっすぐさが受けているのでしょう。

もちろん小川淳也さんは「平均的な国会議員」でありません。あれだけまじめな議員は少ないです。自治省出身のエリートですが、世襲議員ではなく、ふつうの庶民です。お母さまが美容院をやっていて、前に飲みに行った時に「パーマ屋の息子」と自称していたような気がします。勉強熱心な政策通だし、国会での追及は一流です。

そういう「まともな国会議員」もいることが、広く世間に認知されるのはうれしいです。国会議員はスキャンダルや問題があると大々的に報道されますが、まじめにやっていてもなかなか報道されません。「〇〇議員は今日もまじめにがんばっています」というニュースはあり得ません。

こういうドキュメンタリー映画で真剣に政治に向き合っている国会議員が紹介されると、多くの人の政治家不信が緩和されると思います。せめて「国会議員のなかには悪いヤツもいるけど、まじめにやっている人もいる」という認識になれば万々歳です。

もちろん悪い国会議員もいることは否定しません。しかし、単純に「国会議員は全員ダメだ」というニヒリズム的な感覚は、政治的無関心を招いて棄権を呼び、低投票率につながります。低投票率は、組織票や利益団体に頼る国会議員に有利な政治状況を生み出します。

一方、「国会議員のなかには、まともな議員もいれば、悪い議員もいる」という当たり前の認識に立てば、「選挙では政治家をじっくり見て、慎重に選ばなくてはいけない」という感覚を持てます。それが政治を良くすると思います。

私の目から見て「いつもの小川淳也さん」が、一般の人の目には特別に映るというのは、いかに政治が信頼されていないかを示しています。小川さんほどまじめで優秀ではないかもしれないけれど、まじめに政治に取り組んでいる国会議員はけっこういます(少なくとも立憲民主党にはそれなりにいます)。

この映画をきっかけに多くの人が政治に関心を持ち、「小川淳也さんみたいにまじめな国会議員もいる。国会議員は悪い人ばっかりではない」と思ってもらえれば、それが政治への信頼回復につながります。ぜひ多くの人に観ていただきたい映画です。