世界のリベラル政党の政策(2)ニュージーランド労働党

ニュージーランド労働党(New Zealand Labour Party)は与党であり、アーダーン首相が党首です。2017年に就任したアーダーン首相は、首相在任中に女児を出産して話題になり、コロナ対応でも評判がよく、正々堂々とニュージーランドを統治しています。

そのニュージーランド労働党が2021年12月に発表したばかりの政策綱領(Policy Platform)は、57ページのけっこう詳細な政策文書ですが、インターネットでダウンロードして読んでみました。

まず「The Labour Party Policy Platform」の位置付けは、党の価値やビジョン、政策の優先順位を示し、党員に対して党のめざす方向性を示すものとされます。党の年次総会で毎年議論され修正されます。そしてこの文書に基づいて、総選挙のマニフェストが作られます。

第1章の第1節では、「公正な分配」や「脆弱な人たちへの支援」そして「より良い明日への希望」といったフレーズが並びます。ニュージーランド労働党が「公平な分配」を一丁目一番地に持ってきている点は印象的です。

第1章の第2節では、「労働党が福祉国家(welfare state)をつくってきた」ことを誇り、福祉の充実について語ります。「住宅、教育、医療への普遍的なアクセスを提供(universal access to housing, education, and health)」と述べます。

私が意外に思ったのは、順番が(1)住宅、(2)教育、(3)医療の順である点です。おそらく日本だったら(1)医療、(2)教育の順番で、住宅は福祉政策には含まれないでしょう。

ニュージーランド労働党は「住宅政策は福祉政策」と見なしているのだと思います。日本では「住宅政策は建設政策」と見なされますが、「衣食住」というくらいで「住まい」は必須のベーシックサービスであり、人間らしい暮らしの基本です。

ニュージーランドでは金融緩和で住宅価格が高騰しており、住宅問題は深刻です。住宅政策を経済政策や建設政策ではなく、福祉政策のカテゴリーに入れるのは賢明な判断です。日本もそうすべきです。

ニュージーランド労働党の政策文書には先住民(マオリ)政策がかなり出てきます。日本政治の参考にはあまりならないので、あえて詳細は述べませんが、マオリへの気の使いようはたいしたものです。ニュージーランド労働党の文書を読んでいると、日本政府も、アイヌ文化や琉球文化、あるいは外国にルーツを持つ国民の文化にもっと敬意を払った方がよいと感じます。

党の原則(principles)では「競争より協力(Co-operation, rather than competition)」を訴え、公正な富の分配を重視するとされています。ニュージーランド労働党は「民主社会主義(democratic socialism)」と堂々と述べ、明らかに新自由主義的な政策とは異なるポジションに立ちます。

税制に関しては公平性が協調されます。貧富の格差をなくし、子どもの貧困率を下げるといったことを具体的に述べます。日本政府も「子どもの貧困率削減」を政策の柱に明確に位置づけるべきだと思います。

所得の不平等を是正する手段としての所得税の重要性、インターネット企業の租税回避の必要性など、興味深い税政策もあります。

経済政策に関しては「持続可能な経済発展」を掲げ、「クリーン、グリーン、クレバー(clean, green, and clever)」は経済発展アプローチを採用し、高い環境基準、高付加価値化、再生可能エネルギー、低炭素化を重視すると述べます。

この文書に何度も何度も出てくるのが「公平性」という言葉です。「fairness」「fair」「just」という単語が繰り返し出てきます。ニュージーランド労働党がいかに公平性を重視しているかがよくわかります。

おもしろかったのは「刑務所や警察、裁判所の運営には民間セクターは関わらせない」と力強く宣言している点です。米国では刑務所の民営化が進み、問題になっていますが、ニュージーランド労働党はそういった民営化に強く反対しています。「司法制度の運営には国家以外は関わるべきではない」と述べます。

裏を返すと、こういうことを言わないと、何でも民営化する流れが過去にあったことを示しています。かつてのニュージーランドは「小さな政府」をめざす新自由主義的な行政改革の先進国でした。日本のNPM(ニューパブリックマネジメント)の教科書にもよくニュージーランドの事例が紹介されていました。しかし、新自由主義的な改革の行き過ぎへの反省から、国営銀行の設立や鉄道の一部国有化等を行い、政府の介入を一部復活させています。

その他に興味深いのは、公共放送について一項目立てられ、強力な独立した公共放送が重要である点を強調し、公的資金による助成が民主主義にとって不可欠であると述べている点です。

イギリスにはBBCがありますが、日本のNHKとはちょっと雰囲気がちがう印象です。自民党政権の総務大臣は電波法を使って民放を含めたメディアを脅すことがありますが、「民主主義には独立した公共放送が重要」という政治風土ではそんな脅しは通用しないでしょう。BBCは政権に対して批判的な報道もしますが、日本にもそんな公共放送が必要だと思います。

外交安全保障政策でニュージーランド労働党が際立っているのは非核化(核軍縮)政策への積極性です。平和維持活動や発展途上国への援助(ODA)にも熱心に取り組んでいます。

そして「ODAは外交政策から独立すべき」という方針を打ち出している点も立派な見識だと思います。長期政権だった安倍政権の外交をふり返ると、ODAを短期的(近視眼的)な国益を追求する道具と見なしていたのが明らかです。目先の損得勘定だけでつき合えば、本物の友人はできません。それは個人間の友情も国家間の友情も同じだと思います。

最後に政策形成への市民参加、公共サービスの設計にあたっての市民社会組織(NPO等)との調整といった点が、明確に記されている点も好感が持てました。行政の透明性、アカウンタビリティ、公平性等が協調され、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の重要性についても述べます。政府の役割をきちんと定義し、めざす政府像・社会像を明確に述べている点はよいと思います。

ニュージーランド労働党の政策プラットフォームを読んで私は好感を持ちました。こういう政党だからこそ政権を担い、国民に信頼されているのだと思います。立憲民主党が政権を担うためのよい参考になると思います。