“公的災害保険”はどうでしょうか?

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以前から地球温暖化にともなう海水温の上昇等の影響により、台風、高潮、集中豪雨の激甚化と災害発生頻度の増加が予測されてきました。近年の福岡県では毎年のように集中豪雨による水害が発生しています。「50年に1度の大雨」が毎年のように降っているのが現状だと思います。異常気象が日常化しています。明らかに地球温暖化の影響だと思います。

地球温暖化時代の政府は、「災害に強い政府」でなくてはいけません。また災害に備えた制度づくりが重要です。英国エコノミスト誌の「2050年の世界」という本で同誌の経済エディターのポール・ウォレス氏が次のように述べていました。

未来の国庫は、例えば気候変動に伴う極端な気象現象による災害に備えての自然災害税など、多数の財源を持つことを要求される。

確かに「自然災害税」も選択肢としてあり得ると思います。しかし、日本では税金よりも社会保険の方が納税者の理解を得やすい傾向があるので、私は「公的災害保険」の方がよいと思います。

すでに医療保険、介護保険、雇用保険等の公的保険があります。それに加えて「公的災害保険」が必要ではないかと思って調べたことがあります。世界の事例にあたってみましたが、「公的災害保険」という制度はありませんでした。

民間には災害保険や災害共済があります。たとえば、こくみん共済(全労災)には「住まいる共済」という火災と自然災害の共済があります。損保会社なども災害時に保障される保険を用意しています。

しかし、政府が運営する公的災害保険は、世界でも存在しないようです(私の調べた範囲では)。これだけ自然災害が激甚化して頻度も増えると、公的な災害保険があってもいいと思います。

日本の国民皆保険制度は、国際的に高い評価を受けています。GDP比で見ると低い医療支出にも関わらず、平均寿命も長いし、医療水準も高いです。他方、国民皆保険制度のない米国では、GDPに占める医療費の割合は非常に高い一方で、医療サービスの格差が激しく、貧困層は医療へのアクセスが限られ、平均寿命も短いです。

米国で医療サービスを市場原理にゆだねた結果が、医療格差と短い平均寿命です。国民皆保険制度がない場合、民間事業者が保険を提供するわけです。加入者の保険料の中から、医療サービスを提供し、株主に配当し、経営者に高給を支払い、テレビCMなどの広告費、議会でのロビー活動費(米国では膨大な金額のはずです)まで出しているわけです。株主配当やテレビCM代等は、公的医療保険であればおそらく必要ない支出です。

国民皆保険でない場合には、保険会社は「健康に問題のある人がそれを隠して保険に加入しようとするリスク」を避けるために検査して排除します。また、保険加入者も不健康であることを隠すインセンティブが生じ、だまし合いのような状況が生じがちです。健康状態に問題のある人は、いちばん医療保険のニーズが高い人です。しかし、営利企業が運営する医療保険だと、保険に加入できない可能性が高くなります。

すべての国民を対象とする公的な医療保険制度のメリットは、誰も排除しないことです。全国民が加入するので、リスクも分散され、バランスも取りやすいです。病気のリスクを隠すといったモラルハザードも起きません。

医療で当たり前の国民皆保険制度をまねて、災害保険も公的な国民皆保険にしてはどうでしょうか?

国民の多数派が「被災者支援や防災インフラのためなら増税してもいい」と言うのであれば、増税したらよいと思います。増税の方がシンプルです。しかし、いまの日本には「増税アレルギー」と言える雰囲気が蔓延しています。

私は「必要な増税」もあると思いますが、他方で「増税」というだけで反発される風潮があります。堂々と「災害対策のための増税」を訴えても、いまの日本では実現は難しいと思います。そこで、すべての国民が災害の被害にあう可能性があり、すべての国民が受益者になる「災害保険」を国民皆保険で整備する方が、国民の納得を得やすいと思います。

たとえば、正々堂々と「被災者支援と防災インフラ整備に追加的に年間2兆円必要だからその分増税します」と訴えて、国民の多くが賛同するのが正攻法であり理想です。しかし、そんなことを言っても「まだ無駄が削れるはずだ」とか「公務員を減らせ」といった批判を浴びるのは目に見えています。

だったら強制加入の「公的災害保険」の制度を創設し、首都直下型地震や南海トラフ地震、高潮による首都や関西圏の水没等の何十年に一度の地震や津波を含め、巨大災害が起きた時のために積み立てたらよいと思います。首都直下型地震や南海トラフ地震の場合、復興予算も100兆円単位になるでしょう。被災後に国債を発行して国が借金するのもひとつの手ですが、事前に積み立てるのもひとつの考え方です。

また、公的災害保険でお金をプールしておけば、災害発生時に迅速に被災者の支援に予算を配分できます。補正予算を待つまでもなく、すぐに災害対策の予算を執行できます。被災者の住居再建等にすぐお金を出せます。給付を受ける側も「日ごろから払っていた災害保険料が役立った」と納得して受給できます。

まだ世界に存在しない制度「公的災害保険」は必要だと思います。気候変動で豪雨災害や台風被害の激甚化が避けられない時代には必要なインフラではないでしょうか?

*参考文献:エコノミスト編集部 2012年 『2050年の世界:英「エコノミスト」誌は予測する』文藝春秋

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