竹中治堅編「二つの政権交代」【書評】

まもなく国会が始まるので、その準備段階から国対の仕事が始まります。今週は東京と地元福岡を3往復という強行日程。そのかわり移動中に本を読む時間はとれます。ということで、久しぶりの書評ブログです。

編著者の竹中治堅教授には、大学でマンツーマンでご指導いただいたことがあります。竹中教授は、おそらく日本を代表する政治学者です。ご著書には「首相支配」や「参議院とは何か」といった名著があります。これまでにない視点で現実の政治を鋭く分析するのが、竹中先生の凄味です。たまたま受講者が私ひとりという授業があり、マンツーマンでご指導いただきました。個人レッスンは、非常に刺激的ですが、まったく気が抜けなくて、緊張の連続でした。

この「二つの政権交代」は、
① 2001年1月から2009年9月までの自公政権、
② 2009年9月から2012年12月までの民主党政権、
③ 2012年12月から2015年12月までの安倍政権(自公政権)
の3つの政権期に分けて分析します。

2009年12月の民主党政権への政権交代、2012年12月の安倍政権への政権交代の「二つの政権交代」について書かれた本です。8人の政治学者が、8つの政策分野(農業、電力システム改革、コーポレートガバナンス改革、子育て支援、消費税増税、対外政策、防衛大綱改定、憲法解釈の変更)にしぼって分析します。

竹中先生は終章で以下のように述べます。

民主党政権に厳しい評価がなされ、安倍政権と民主党政権の政策は違うと解釈される場合があるにもかかわらず、内容を精査すると多くの分野で安倍政権と民主党政権の間に政策の継続性がみられるというのは興味深い知見である。

本書の結論では「民主党政権の失敗」という一面的な見方は否定されます。民主党政権が始めた政策を安倍政権が継続している事例が意外と多いことが明らかになります。安倍政権の金融緩和や安保法制のような政策変更だけに注目していると気づきませんが、意外に政策に継続性があり、ひそかに民主党政権の果実を安倍政権が享受している例が多いことがわかります。

安倍総理は民主党政権を口汚く罵倒しますが、民主党政権が導入してうまく行っている政策(あるいは安倍政権がうまく行っているとみなした政策)は黙って継続していることがわかります。もちろん民主党政権時代にも問題のある政策もありましたが、そういう政策の多くは今でも継続されています。

その他に自公政権でも民主党政権でも共通してみられる現象も多々あります。二つの政権交代で共通する現象を箇条書きすると以下の通りです。

1)首相および首相周辺の政治家や官僚の役割の増大。「安倍1強」と呼ばれ、官邸の権力強化は明らかですが、民主党政権でも官邸への集権化が進んでいました。安倍政権の官邸主導は、民主党政権以来の流れをさらに加速した感じです。

2)政府外の与党議員の地位の低下。民主党政権のときも政府に入っていない与党議員の影響力は低く、安倍政権でもその流れは変わりません。自民党の若手議員が国会での質問時間を長くしろと騒いでいますが、政府に入れない陣笠議員の影響力が低下していることの反動といえそうです。族議員の影響力は低下し続けています。かつての聖域の自民党の党税調も昔ほどの影響力はありません。

3)利益集団の影響力の低下。農業政策では農協の影響力が低下し、電力会社は福島第一原発事故以後影響力を低下させました。その他の政策分野でも業界団体の影響力は低下傾向にあります。

次に政権交代を起こすときには、安倍政権で成功したやり方は真似しなくてはいけません。安倍政権の政策の多くは、方向性は真似したくありませんが、手法については真似した方がよい点が多々あります。

たとえば「見せ方」が上手である点や、官僚をうまく使っている点は真似しなくてはいけません。汚い手は真似しませんが、官邸主導で政策を動かすやり方は真似してもよいでしょう。ポスト安倍政権に向けて研究していきたいと思います。

*竹中治堅編 2017年 『二つの政権交代』 勁草書房
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b279190.html