【書評】現職衆院事務総長が書いた「議会学」

現職の衆議院事務総長の向大野新治氏の新刊「議会学」のご紹介です。「事務総長」というポストは、議員以外の者から、本会議における選挙で選ぶことになっている役職です。実際には手続きを省略して議長が指名する慣例ですが、他の衆議院事務局職員より格上の特別職です。事務総長は、内閣における官房副長官のような役割を、国会で果たします。

衆議院議員として10年以上在職して国会対策畑だったので、国会のことはある程度わかっているつもりでしたが、けっこう知らないことが多いことに気づかされました。

たとえば、学生時代から疑問に思っていたことも、この本を読んであきらかになりました。なぜ日本の議会は「Diet」と呼び、英国の議会は「Parliament」と呼ぶのかといった疑問です。向大野事務総長の説明によれば;

Parliament:英国他。ラテン語の「議論する」の意から。スコットランドで使われ始めた。

Congress:もともと「国際会議」を意味する。米国の州の代表者が集まった会議。米国の州はもともと独立国のようなものなので、州の代表者が集まる「国際会議」的な議会としてスタートしたため。

Assembly:多数の人が集まる場所の意。国連総会は「General Assembly」である。

Diet:ドイツ近辺の身分制議会を発祥とするのが「diet」であり、明治の帝国議会はドイツ議会を模範につくられたので「Imperial Diet」と呼ばれていた。

向大野事務総長は衆議院に長く身を置いた人らしく現実的で地に足についた議論をされます。マスコミの社説などでよく見る皮相な「きれいごと」に囚われず、ストレートな表現で国会のあり方を論じます。

たとえば、向大野氏は「権力闘争の場としての議会」と直截に表現し、「自由闊達に意見交換すれば、最適な答えが出てくる」といった非現実的な考えにはくみしません。大昔であれば流血をともなう権力闘争が、選挙や議会という平和的な手段を通じて権力闘争を行っている点を指摘します。そして向大野氏は次のように書きます。

議会は、統治の主体ではなく、統治府たる政府の外にあって、統治者の判断や行動が間違わないように、あるいは間違った場合に、それを修正したり、その責任を追及するための統治の最善化を職責とする政治的機関なのである。これは、議会の歴史に則したものである。

安倍総理や麻生総理が間違った判断を行っている今、その責任を追及して「統治の最善化を」をめざすのは、議会としての当然の役割です。「森友・加計学園の追及ばかりで、国の政策の議論がおろそかになっている」という批判が的外れであることがよくわかります。統治者が間違っているときにその責任追及を避けて、外交や経済の高尚な政策論議だけしていれば、それで政権担当能力をアピールできる、と考えるのはピント外れです。

この本は党首討論についても詳しく説明しています。党首討論が日本ではあまり定着しなかった理由として、日英の議会質疑のあり方の違いがあります。英国議会では、議員が首相と直接議論する機会は、緊急質問とプライムミニスター・クエスチョン・タイム(PQ)しかありません。一方、日本の議会では、政府4演説に対する代表質問、予算委員会の集中審議、重要広範議案での基本的質疑など、首相に問いただす機会がいくつもあります。英国では「ほかに首相に質問する機会がない」という理由で、クエスチョン・タイムがとても重要です。日本ではクエスチョン・タイムが重要でないのは明らかです。

また、日本の党首討論はわずか45分間を複数の野党党首で分け合うため、一人当たりの質疑時間はきわめて短くなります。首相と十分に質疑をやろうとおもったら、予算委員会集中審議等で何時間も議論する方が良いに決まっています。たとえば、予算委員会で7時間の質疑時間があったとすれば、野党第一党の立憲民主党の質疑者は2時間以上質問できます。しかし、党首討論だと枝野代表の質疑時間はわずか17分です。野党側には党首討論をやるメリットはほとんどありません。

以上のように国会にかかわる様々な小ネタがわかる本で、一般の方にはちょっと専門的すぎる内容も含まれますが、政治に関心のある方にはお薦めします。

*ご参考:向大野新治 2018年『議会学』吉田書店

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