立憲民主党

分断を助長するソーシャルメディア by イアン・ブレマー

2022年6月19日
日々の雑感、書評

国際政治アナリストのイアン・ブレマー氏は「Gゼロ後の世界」等で有名ですが、ソーシャルメディアによる社会の分断を大きなリスクと見なします。同氏はアメリカにとって最優先課題として次の3つをあげます。

1.偏在する富の再分配

2.構造的な人種差別の是正

3.分断を助長するソーシャルメディアの規制

イアン・ブレマー氏がリベラル派という印象はありませんが、こういう人でも再分配を重視せざるを得ない深刻な事態なのでしょう。人種差別が深刻なのもよくわかります。

私にとって意外だったのは「分断を助長するソーシャルメディアの規制」です。私も「ソーシャルメディアは政治的分断を助長する」と以前から主張してきました。

ソーシャルメディアを全否定はしません(私もFacebookを使っています)が、その危険性を知った上で上手につきあうことが大切だと思います。ソーシャルメディアは友だちや趣味の仲間とつながるには優れたツールですが、政治を議論するのには向いていません(私は一方的に発信するだけにしています)。

イアンブレマー氏は次のように述べます。

ソーシャルメディアはそのアルゴリズムの特性から、利用者自らが求める情報ばかりを表示して、反対意見に触れさせることがありません。すでに存在する政治的志向の分断を、さらに大きくしようとソーシャルメディアを駆使する人々もいます。特に知的な起業家層にそういうタイプが多いのです。彼らの存在が、さらに憎悪を増幅させ、政治的分断を助長しています。

これを読んで「なるほど!」と思いました。成功した若い起業家のなかには、「すべて自分の実力で成功した」と確信している人もいます。たまたま先進国の裕福な家庭に生まれて名門校で高い教育を受けたことが成功の最大の理由だったとしても、それを認める謙虚さを持ちあわせている人ばかりではありません。

おそらくシリア難民として生まれたり、北朝鮮の農家の子どもとして生まれていたら、どんなに実力があっても起業家としての成功は難しいでしょう。〇〇大学付属小学校に通って、中高一貫の名門校で学び、一流大学を出て、アメリカの一流大でMBAを取得して成功したとしたら、成功要因の8割は親と生まれた国に帰することができるでしょう。つまり「生まれ」がほとんどです。

謙虚さを持ちあわせていない知的な起業成功者は、リバタリアン的(≒新自由主義的)思想に染まり、再分配政策を敵視する、というパターンが多いのでしょう。一部の知的な起業家がソーシャルメディアを使って分断を広げている、というイアン・ブレマー氏の指摘はかなり的を射ていると思います。

起業家で社会貢献に熱心な人もたくさんいます。しかし、なかには当事者としては「社会貢献」のつもりで、自らの政治的主張をソーシャルメディアで発信し、政治的分断を広げているケースがアメリカでは見られます。たとえば、ネオコン系のシンクタンクに寄付する大金持ちもそうです。

ドイツの哲学者のマルクス・ガブリエル氏は「SNSは民主主義を弱体化させるドラック」だと言います。

アメリカのソーシャルメディアは自由民主主義を弱体化させる危険なドラッグなのです。自由民主主義の失墜とソーシャルメディアの台頭には相関関係があるだけではなく、ソーシャルメディアが民主主義の破滅をもたらす主因だと思っています。

まったく同感です。ソーシャルメディア(ツイッターやFB)ばかりを見ていると、専門家でも何でもない人たちの根拠なき感情論に影響されることが多くなります。似たような意見が反響し合う「エコーチェンバー現象」にどっぷり浸ります。

自分と似た意見や耳に心地よい意見ばかりに触れて繰り返し聞いていると、視野がますます狭くなり、多様な意見に接する機会が減ってしまいます。インターネット上に情報があふれていますが、アルゴリズムで入ってくる情報は、自分好みの情報ばかりで、視野をより狭める効果があります。

またインターネットの言論空間では、長年研究してきた専門家や現場の実務家の意見も、思いつきで発言する素人や芸能人の意見も、同じように表示されます。むしろタレントやユーチューバーのシンプル(=短絡的)で、わかりやすいロジックの方が説得力を持つことも多いです。複雑な課題に単純な答えを出す方が、インターネット空間では評価されがちです。

ソーシャルメディアに使う時間が長ければ長いほど、視野が狭くなり、幸福度が下がります(*ソーシャルメディアと幸福度の低下については何度かブログで指摘しましたので、今日は割愛させていただきます。)。

イアン・ブレマー氏が言うように「ソーシャルメディアの規制」も検討する価値があるかもしれません。少なくとも誹謗中傷やフェイクニュースの規制はある程度必要だと思います。

*参考文献:

イアン・ブレマー「コロナ後のGゼロの世界」⇒ユヴァル・ノア・ハラリ他 2022年 『コロナ後の未来』 文春新書のなかの1章です。

マルクス・ガブリエル2021年「つながり過ぎた世界の先に」PHP新書

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