立憲民主党

この国の危機管理 失敗の本質(柳田邦男)

2022年6月16日
暮らしと経済

柳田邦男著「この国の危機管理 失敗の本質」(2022年、毎日新聞出版)は、国家の統治にたずさわる政治家や幹部公務員には必読書だと思います。柳田氏といえば、航空機事故などの事故調査を得意とするノンフィクションライターです。事故調査は刑事捜査とは異なります。柳田氏によると;

事故原因や背景要因の構造的な問題点を解明する事故調査の目的と任務は、誰かの過失責任を追及する行政調査や刑事捜査と本質的に違う。(中略)刑事捜査や行政調査であれば、関係法規に照らしてその失敗や過失の責任を問う。つまり誰かをお粗末な者として処罰して終わりということになる。

それに対し事故調査は、誰が悪いと関係者の失敗や過失をあげつらうのでなく、なぜ失敗したり過失をしたりしたのか、その誘因や環境条件はどうだったのか、過失が事故に発展しないようにする防護策はなかったのか、組織やシステムにどんな問題があったのか、といったことを明らかにして、そうした様々な不備を改善する方策を勧告したり提言したりして、安全な社会づくりに貢献しようというのだ。

刑事捜査や行政調査だと、当事者は原因究明よりも自己弁護に走りがちで、貴重な教訓を得る機会が失われます。私は、むしろ免責して正直に事故原因を究明し、再発防止のための教訓をくみ取ることを重視すべきだと思います。そもそも意図的に事故を起こす人はふつうはいません。わざわざ犯罪者を生み出すよりも、当事者に失敗の原因をきちんと話してもらい、同じ失敗を繰り返さないことが大切だと思います。

柳田氏は、そういう観点に立ってコロナ危機やミッドウェー海戦、原発事故の経緯を検証し、「この国の危機管理の失敗の本質」に迫り、教訓を得ようと試みます。

たとえば、コロナ危機対応に関し、ドイツ政府のコロナ対応は賞賛されましたが、単に「メルケル首相が立派だった」ということではなく、ドイツ政府の入念かつ先見性のある準備をおかげだったことがこの本を読んでよくわかりました。

2012年12月ドイツのロベルト・コッホ研究は、災害や未知のウイルスから国民の命を守るための「リスク分析報告書2012」をまとめて連邦政府に提出しました。最先端のシミュレーション技術を駆使して、リスクが最悪のレベルで現実のものになった場合をリアルに描き出しました。ウイルスの他に洪水等も検討対象になりました。

ドイツの「リスク分析報告書2012」ではパンデミックにより750万人が死亡する恐れがあると警告しました。この提言を受けてドイツ政府は未知のウイルスに対する体制を強化し、怠ることなく警戒してきました。

コロナ危機にあたってもドイツは2020年1月6日には情報収集・分析を行うワーキングチームを発足させ、日本よりも早く体制を整え、早い時期から国をあげてPCR検査体制を充実させました。ドイツの見事な危機管理は、長年の入念な準備のたまものでした。

 

柳田邦夫氏は「国家の危機管理の5つの原理」を紹介しています。

第一の原理:平常時において最悪の事態をリアルな形で想定し、その事態を乗り切る具体的な対策に全力をあげて取り組む。

⇒ドイツの「リスク分析報告書2012」はきわめて具体的にリスクをリアリティのある記述で警告した点がすぐれています。専門家だけにわかる報告書ではなく、為政者やメディア関係者にもわかる記述が重要です。

第二の原理:発生事例が極端に少ない段階のうちに行動を起こす。

⇒初期のうちに危機管理対策を起動させるかどうかが、感染症拡大の小規模に抑えこめるか否かの分かれ目になります。日本政府のコロナ対応が遅かったことは明らかです。台湾政府は対中国インテリジェンス能力が高く、早い時期からコロナ危機に備えていたことが知られています。空振りに終わってもよいから早い時期に思いきった対応をすべきだったといえます。

第三の原理:危機管理対策は一般受けするようなお題目を掲げるだけではなく、お題目の実効性を確保できるだけの組織・人員・資材の裏付けがなければならない。

⇒以前に私のブログでも書きましたが、テレビ受けする知事がコロナ対策をうまくやったわけではなく、「劇場型政治家」の方が危機管理が下手だったこともありました。実効性を担保する組織・人員・資材と予算が重要ですが、その当たり前のことがなされていなかったということです。

*ご参考:2021年5月17日付ブログ「コロナ対策の都道府県別の評価」

コロナ対策の都道府県別の評価【大阪府 最下位】 | 山内康一 (kou1.info)

第四の原理:関係者間の情報連絡、特にリスク・コミュニケーションとその連絡・周知の方法・手段がきわめて重要である。

⇒これはわかりやすいので、コメント不要ですね。

第五の原理:一つの作戦(政策)を実施した時、計画通りに目的を達成できずに、混乱を生じたり挫折した場合、それが致命的な痛手になって、より大きな戦略の崩壊につながらないようにするには、実践部隊とは別の冷静に客観的に判断できる検証チーム(常設が望ましい)が速やかに失敗の原因や背景を分析し、最高司令官がその報告に基づいて作戦(政策)の変更や中止を命じ、戦線の立て直しをしなければならない。

⇒前例のない危機においては失敗はつきものです。失敗した時に速やかに軌道修正できるなシステムを常日頃から用意しておく必要があります。当事者はどうしても客観視できないので、別の検証チームを置くのは有益だと思います。常に「Bチーム」を用意して検証させたり、代替案を検討させたりすることは、国家の危機管理にあたって有益だと思います。アメリカのCIAや国防総省も学者などにBチームの編成を依頼し、代替案を検討させることがあります。日本政府もそのようなメカニズムを常備しておく必要があるでしょう。

そのほかにも興味深いポイントがたくさん出てくる良書でした。

*参考文献:柳田邦男 2022年「この国の危機管理 失敗の本質」毎日新聞出版

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