参議院選挙の最中ですが、陰謀論を信じる排外的ポピュリズム政党が躍進しつつあり、危機感を覚えます。ということで、久しぶりに投稿します。
主題は「排外的ポピュリズム政治家とどう戦うか」です。
排外的ポピュリズムは世界的現象です。グローバル化で先進国では移民の増加や製造業の衰退により、所得格差が拡大して中間層が没落し二極化が進みます。分厚い中間層の存在こそが健全な市民社会と民主主義の基盤ですが、その基盤が崩れ不健全な政治勢力が台頭しています。
インターネットが生む「エコーチェンバー現象」やインターネットがたれ流す陰謀論も排外的ポピュリズムを後押ししています。排外的ポピュリズム政治家は、在日外国人や既得権を持つように見えるエリート層を攻撃し、「敵(彼ら)」を創り出すことで支持を広げます。
典型的な排外的ポピュリズム政治家は、自らを愛国者であり、忘れられた人々(善良な人、庶民、サイレント・マジョリティ)を代弁すると主張します。「われわれ」と「彼ら(移民やエリート)」という対立軸を作り出し、それ以前に政治に参加していなかった人たちを動員します。
排外的ポピュリズム政治家は、理性よりも感情に訴えます。ありもしない既得権を打破すると主張します。ありもしない既得権の典型が「在日特権」です。そんな特権は存在しません。
排外的ポピュリズム政治家は、反自由主義(反リベラリズム)の立場をとり、少数派(移民やLGBTQ、少数民族など)の権利を無視します。沖縄県民への差別などもその一例です。排外的ポピュリズム政治家は、男女平等は「男らしさ」と家父長的階層構造を脅かすと訴え、主に男性の不安を煽ります。
排外的ポピュリズム政治家は、政治をシンプルなものとみなします。現実の世界の複雑さを認めません。問題の原因を外部(外国人)に求めます。たとえば、トランプにとっては不公正貿易を行う中国人や越境して来るメキシコ人が問題の元凶となります。
排外的ポピュリズム政治家の支持者の多くは、ポピュリスト政治家が嘘つきで憎悪をあおり、がさつであることを承知しています。しかし、既成の政治家や政党に幻滅しているため、ポピュリスト政治家に魅力を感じています。
排外的ポピュリズム政治勢力の伸長は油断できません。ドイツの政治家たちは2016年秋の段階で「第二次世界大戦の経験からドイツでは極右ポピュリスト政党が国政に進出することはない」と断言していました。その1年後に極右政党のAfDが連邦議会で第三の勢力に躍り出ました。日本で同じことが起きないとは断言できません。
排外的ポピュリズム政治家の特徴は「反知性主義」です。佐藤優氏によると「反知性主義」とは、「実証性と客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」をさします。反知性主義は学歴とは関係がありません。東大卒の反知性主義者もいます。
佐藤優氏は次のようにいいます。
反知性主義に対抗することは実に難しい。知的な言語は、反知性主義には通じない。なぜなら反知性主義者は知性自体を憎んでいるからだ。
科学的根拠に基づく反論をしても反知性主義者の排外的ポピュリズム政治家には効果がありません。そこで佐藤優氏は次のように提案します。
反知性主義者を啓蒙によって転向させるという戦略は、ほとんど無意味だ。知性の力によって、反知性主義者を包囲していくというのが、私が考える現実的な方策である。言葉の力によって反知性主義者を包囲し、少なくともその影響が政治に及ばないようにすることだ。もちろん反知性主義者も言葉を用いる。ただし、その言葉は軽い。
排外的ポピュリズム政治家は、権力を握れば危険な独裁者になります。ロシアのプーチン、トルコのエルドアンなどの独裁者は、排外的ポピュリズム政治家の典型です。
紛争解決の専門家のビル・エディ氏は著書「危険人物をリーダーに選ばないためにできること」のなかで次のように述べます。
- 独裁者は、悪性のナルシストであることが多い。
- 悪性のナルシストは、共感能力と罪悪感が欠如し、冷淡で自己中心的である。
- 悪性のナルシストは、自信満々で堂々としているので、一見すると魅力的である。
- 悪性のナルシストは、社会的地位の高い人に多く見られる。
- 強い指導者を求める有権者は、悪性のナルシストを評価する傾向がある。
- 悪性のナルシストは、陰謀論で架空の危機と架空の悪者をつくり、対立をあおることで支持を集める。
- 悪性のナルシストは、人口の1~3%を占める少数派を迫害し、多数派の支持を得る。
- 悪性のナルシストは、攻撃的な言動をとり、すべてを支配する権力者になりたがる。
ビル・エディ氏はこうした独裁者(=排外的ポピュリズム政治家)への対処法を示します。
非常に攻撃的な言動に対してよくある対応は、受け身になり、結果として攻撃的な人物に従ってしまうというものです。しかし、対立屋に対しては決して受け身の対応をしてはいけません。してしまうと、彼らはみなさんを踏みつけ、恥をかかせ、弱虫と呼んで、破滅させようとします。
対立屋の度を越した攻撃に対するもうひとつのありがちな対応は、対立屋と同じように攻撃的になることですが、対立屋に対しては決して攻撃的な対応をしてはいけません。うっかりしてしまうと、その瞬間から彼らはみなさんのことを怒りっぽい、頭がおかしい、破壊的な、もしかすると暴力的な人物であると決めつけ、そして自分は良識ある、理性的な、冷静な人間だと言うのです。
対立屋の非常に積極的な攻撃に対するもうひとつのありがちな対応は無視することですが、相手にするのを拒否すると、対立屋はみなさんのことを逃げ出した臆病者であるとか、「真実」から目を背けようとしているなどと言って攻撃してきます。
対立を煽る政治家に対する最良の、そして唯一の効果的アプローチは、堂々と自己主張することです。自分(や、自分が支持する候補者)を積極的に弁護するのです。対立屋に負けないくらい精力的になりましょう。ただし、対立屋に負けないくらい他者を報復してはいけません。事実に焦点を合わせるのです。しかも、相手を攻撃したり、破滅させたりしようとせずにです。大切なのは、事実に基づく正確な情報のみを提示することです。そのためにも、焦点を絞って、明確に、力強く(多少高圧的でも)、ただし落ち着いた話し方をしてください。
対立屋の攻撃を受けたら必ず、なるべく時間を空けずに発信しましょう。可能なら、攻撃されたのと同じ場所で、たとえば、同じ新聞、同じ討論会、同じソーシャルメディアで発信してください。できるだけ早く対応して、対立屋による間違った情報が出た直後に事実に基づいた情報が流れるようにしなければなりません。
どんなときでも対立屋と同じくらい精力的になってください。有益な情報を示すと同時に、力や自信を見せつけるのです。事実に基づき、冷静さを失わないようにしましょう。正確で有益な情報とその落ち着いた態度があなたの力になりますし、対立屋やその代理人たちとの違いを明確にしてくれます。
ビル・エディ氏が提案するような積極的対抗策とは別に心すべきは以下のような点です。
- 政治に対する適度な楽観と健全な懐疑主義を身に着け、責任ある市民として社会に参加する基礎力をつける。より良い社会を築く主体になるためにはある程度の知識が必要である。お任せ民主主義やヒーロー待望論では社会は良くならない。「スカッとさわやかな政治」はコーラと同じ。栄養はなく、健康を蝕み、お金がかかり、ゴミが出る。
- 非現実的な幻想をバラまく政治家を警戒する。消費税をゼロにして、医療や教育サービスを充実させるのは不可能。消費税増税の必要性と主張すると「財務省に洗脳された」と批判されるが、単なる陰謀論でしかない。低負担で高福祉は不可能という当たり前の現実を受け止めれば、今の日本には「高福祉高負担」または「中福祉中負担」または「低福祉低負担」の3つの選択肢しかない。
- 複雑な問題にシンプルな答えを用意している政治家を疑う。何でも中国のせいにするのも、何でもアメリカのせいにするのも、何でも左翼のせいにするのも、何でも安倍総理のせいにするのも間違い。陰謀論はたいてい間違い。
- 世界で広がるポピュリズム政治は「われわれ」と「彼ら」と対比して非難する。ターゲットは移民のケースが多い。日本ではヘイトの対象が在日外国人であることが多い。政治は善と悪との戦いではない。敵と味方に二分するレトリックを使う政治家を疑う。差異よりも共通点に目を向ける。「われわれ」と「彼ら」の対立構造を描き排外主義をあおる政治家を警戒する。
- マイノリティを排除する排外的ナショナリズムではなく、包摂する愛国主義が求められる。多民族民主主義の土台の上に民族や宗教を超えたきずなを築いていく。国を愛することと、外国人を排斥することは、同じではない。自らの国を愛しつつ、外国人に寛容になる選択肢もある。健全な愛国心をもって排外主義的なナショナリズムを無害化する。
長い文章で失礼しました。最後までお読みいただき、ありがとうございます。
排外的ポピュリズム政治がはびこらないよう頑張りましょう。