イェール大学で哲学を教えているジェイソン・スタンリー教授の著書「ファシズムはどこからやってくるか」(青土社)にファシズムを特徴づける「ファシズムの10の柱」というのが出てきます。
1.神話的過去
2.政治宣伝(プロパガンダ)
3.反知性主義(高等教育への攻撃)
4.非現実性(陰謀説)
5.階層構造(ヒエラルキー)
6.被害者意識
7.法と秩序
8.性的不安
9.ハートランド(保守的で伝統的な価値観が支配的な地域)への回帰
10.社会福祉の団結の解体
この柱に沿って参政党の主張や政策を検証してみます。
第1の「神話的過去」については、教育勅語を信奉する懐古主義の参政党は「神話的過去」を重視しています。参政党の教育政策には「神話など祖先からの繋がりや為政者が民の幸福を願う国柄のあり方を学ぶ教育」とあり、何が何だかさっぱりわかりませんが、神話的過去を重視しているのは明らかです。「為政者が民の幸福を願う」などという上から目線が現代のリベラル・デモクラシーの発想とまったく相いれません。
第2の「政治宣伝(プロパガンダ)」が巧みな点も十分に合格です。客観的事実か否かは気にせず、わかりやすい人気取り政策をたくさん並べています。わかりやすさを追求するあまり、政策全体の一貫性や整合性はなく、思い付きを箇条書きしたような公約になっています。
第3の「反知性主義(高等教育への攻撃)」も参政党の特色です。参政党は「4年制総合大学には学びたい人だけが進学するようになるよう、大学数・定員数に上限を設定」と公約に掲げ、大学の数も定員も減らしたいようです。トランプがハーバード大学はじめ大学を攻撃していますが、もし参政党が政権の座についたら、似たようなことをやりかねません。
第4の「非現実性(陰謀説)」は参政党の理念の中核といってもよいでしょう。反ワクチンやユダヤ陰謀論など安っぽい陰謀論のオンパレードです。
第5の「階層構造(ヒエラルキー)」は「日本人ファースト」がその象徴です。日本人がえらくて、外国人は劣等という感覚が見て取れます。もっといえば「日本人」かつ「男性」かつ「異性愛」の人がファーストで、それ以外は劣るという階層構造が頭にあるのでしょう。階層構造で社会を見る人たちは独裁制を招きやすい傾向があります。
第6の「被害者意識」も明らかです。「外国人がやってきて日本人の利益を奪っている」という世界観に立ち、ありもしない「外国人優遇政策」を批判しています。架空の敵をでっちあげるのは、ファシズム政党の常套手段です。ナチスはユダヤ人を敵視しましたが、当時のドイツの人口に占めるユダヤ人の割合は1%未満でした。1%未満のユダヤ人が、ドイツを支配できるはずもなく、ユダヤ陰謀論は妄想以外の何物でもありません。それと同じように日本の人口のわずか数パーセントの在日外国人が、日本人を搾取できるはずがありません。参政党は意味不明の「被害者意識」を原動力に排外的ナショナリズムをあおっています。
第7の「法と秩序」も、被害妄想気味の外国人排除政策を掲げ、治安や国防を重視している点で、条件を満たしているといえるでしょう。参政党の外交安全保障政策は、鎖国的な武装国家をめざしている印象を受けます。世界最強国のアメリカでさえ同盟国の協力がなければやっていけない時代ですが、そういった認識がないのが参政党の特徴です。
第8の「性的不安」に関し、参政党公約には「LGBT理解増進法の廃止」や「同性婚に反対」とあり、重要な柱になっています。専業主婦を優遇する政策を掲げ、ジェンダー平等の流れを逆転させようと必死です。
第9の「ハートランド(保守的で伝統的な価値観が支配的な地域)への回帰」に関しては、「日本古来の道徳的価値観の重視」を訴えるなど、十分に条件をクリアーしています。
公約を読むと「政治家や官僚の定期的な道徳研修を実施し、人事評価に組み込む」とあります。保守的で伝統的な道徳観を重視し、日本国憲法で保障された「思想および良心の自由」などまったく無視です。いまの地球上で政治家が思想教育を受けなくていけないのは、北朝鮮と中国くらいのものじゃないかと思います。参政党の方針は、意外と中国共産党や北朝鮮労働党と似ています。
第10の「社会福祉の団結の解体」に関しては、明確に書かれていることは少ないのですが、国家主義的な方向をめざしているようなので、国家と市民の間に存在する市民社会組織(中間組織)は嫌っているように見受けられます。
大学や労働組合、宗教団体、NPO/NGOなどの多様な中間組織が存在することが、国家権力への拮抗力になり、健全な市民社会と民主主義を守る砦になります。そういう市民社会組織を重視していなさそうな点から「社会福祉の団結の解体」という条件にも該当しそうです。
たとえば、参政党の公約には「第一次産業の担い手の公務員化」という謎の政策があります。一見するとソ連のコルホーズ(集団農場)やソフホーズ(国営農場)をイメージしますが、よくわかりません。「国家が国民を直接雇用して農業に従事させる」という発想は、歴史をふり返れば何度も失敗してきました。参政党の人たちは過去の歴史を学んでいないようです。
以上のように参政党はスタンリー氏の定義する「ファシズムの10の柱」をだいたいクリアーしています。
スタンリー氏は次のように述べます。
ファシスト政治家は自分たちの「現在の展望」を裏づける神話的過去を創り出しながら共通の歴史観を破壊することで、自分たちの思想を正当化する。彼らは政治宣伝(プロパガンダ)で理想を語る言葉をねじ曲げ、反知性主義を推し進めて自分たちの考え方に楯突く恐れのある大学と教育システムを攻撃することで、人々の現実についての共通認識を書き換える。ファシスト政治は最終的に、これらの技術を用いて陰謀説と偽ニュース(フェイクニュース)が冷静な議論に取って代わる非現実的な虚構の国を創り出していく。
現実についての共通認識が崩れていくうちに、ファシスト政治は有害な誤った考えが根を下ろす場所をこしらえていく。ファシズムは「集団によって優劣があること」に慣れさせ、それによって人の価値を階層構造(ヒエラルキー)化することが自然や科学の法則にかなっているかのように見せる。社会的な格付けや区分が固まったところで、「集団相互の理解」を「恐怖」に置き換える。少数派集団の前身は支配者集団に被害者意識をかき立てる。「法と秩序」を掲げる政治は大衆に受け入れられやすく、“我々”は法律を守っている市民で、対照的に“やつら”は国家の男らしさを脅かす無法な犯罪者である、といった具合に役を振り分けていく。男女平等の推進は家父長的な階層構造を脅かすため、性的不安を煽るのもファシスト政治の常とう手段だ。
“やつら”への不安が増すあいだに、“我々”は高潔なすべてを代表する。自由主義的な寛容の姿勢に勇気を得て都市部に暮らす少数派集団の存在や、都市部の世界市民主義(コスモポリタニズム)の脅威にさらされながらも、いまなお民族国家(ネイション)の純粋な価値と伝統が奇跡的に存続しているハートランドに“我々”は暮らしている。“我々”は熱心な働き者で、額に汗して社会的地位を勝ち取ってきた。それに対して“やつら”は怠け者で、“我々”の福祉制度の寛大さにつけ込み、あるいは正直な働き者の市民をしかるべき報酬から遠ざけることを目的に作られた労働組合のような堕落した組織を利用することで、“我々”の生み出すものをかすめ取って暮らしている。“我々”は税金に頼らない人で、“やつら”は税金に頼る人だ。
いまの「参政党現象」とでもいえる排外主義的ポピュリズムの流れは、実は日本特有でも何でもありません。世界共通の病であり、歴史上何度か繰り返されてきたことです。
トランプ大統領を象徴する「アメリカ・ファースト」というスローガンは、1930年代に大統領選挙への立候補を狙っていたリンドバーグも使いました。大西洋無着陸単独飛行のリンドバーグは国民的英雄でしたが、民族純化を訴える人種差別主義者でナチスから表彰されています。「アメリカ・ファースト」という用語は人種差別主義者が好むフレーズであり、恥ずかしげもなく真似する日本の政治家の気が知れません。「日本人ファースト」を叫ぶ政党が力を持つのは危険なことです。
また参政党の主張は、陰謀論と非科学的な発想に基づく虚構に満ちています。税制や社会保障制度は、客観的で正確なデータに基づき長期的視野に立って議論して構築すべきものです。反知性主義的な虚構の土台の上に健全な制度は生まれません。まともに公共政策を議論できない政党には、政権担当能力などあるはずもありません。そのことを多くの人に知ってもらいたいと思います。