ジブチの自衛隊基地はまだ必要なのか?

インド洋のソマリア沖海賊に対処するために、日本政府は2009年から海上自衛隊の護衛艦2隻(現在は1隻に減)と対潜哨戒機のP3Cを2機派遣しています。対潜哨戒機のためにインド洋に面したアフリカのジブチに航空基地もあります。国連安保理決議を受けた国際的な海賊問題への対処でもあり、派遣当時の判断は妥当だったと思います。

しかし、そろそろ自衛隊の派遣を考え直してもよい時期に来ています。ジブチ基地は海上自衛隊の対潜哨戒機用の基地ですが、警備のための陸上自衛隊の特殊部隊もいるし、物資輸送に航空自衛隊の輸送機も往復しています。「自衛隊初の海外の恒久的基地」などと言われ、かなりの財政的負担になっていると思います。

外務省のホームページの資料によると、ソマリア沖の海賊は激減しています。

*出典:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/africa.html

   海賊等発生件数 乗っ取られた船舶数

2008年  111件     42隻

2009年  218件     47隻

2010年  219件     49隻

2011年  237件     28隻

2013年   15件      14隻

2014年   11件       2隻

2015年    0件        0隻

2016年    2件        0隻

 

そろそろ撤収してもよい時期だと思います。撤収といっても「不名誉な撤退」ではありません。5年前は年間200件以上もあった海賊事案が激減したのは、海上自衛隊や各国海軍の協力のおかげです。成果をあげて目的を達成した上での「名誉ある凱旋帰国」です。

これだけ海賊発生件数が減ると、大規模な多国籍の海軍部隊を常時展開する意義は薄れます。そもそも海賊対策は、海軍というより、沿岸警備隊の仕事です。たとえば、日本近海で海賊が出たら、基本的には海上保安庁が取り締まるのが当然です。

しかし、遠洋航海向きの大型の巡視船を持っている国は少ないです。日本の海上保安庁にも遠洋航海向きの巡視船はありますが、もともとプルトニウム輸送の護衛用に調達された船で隻数が少なく、インド洋に派遣する余裕はありません。尖閣沖で手いっぱいの海上保安庁の巡視船を送るわけにもいかないし、他国の海軍との共同作戦には海上自衛隊が便利ということで、海自の護衛艦が派遣されたのでしょう。なお、海上自衛隊の護衛艦には海上保安官が数名乗り組み、法執行に関しては海上保安官が主に対応します。

ここ数年のデータを見ると海賊の発生件数が激減し、いわば「海賊ビジネス」はソマリア周辺では産業として成り立たなくなったのだと思います。従来と同じ規模で海上自衛隊の護衛艦や対潜哨戒機を派遣する必要はありません。ジブチ基地の恒久化も必要はありません。日本の安全保障にとってジブチに基地を置くのは、お荷物を増やすことになるだけです。

予算、人員、機材(船や航空機)のやりくりという点からも、インド洋に貴重な護衛艦を張り付けるのは生産的ではありません。海軍の常識では、護衛艦1隻を最前線で任務に就かせるためには、3隻の護衛艦を割り当てる必要があります。1隻が任務に就いている間に、1隻はドックで整備をしたり乗組員の休養をとったりして、もう1隻は移動中だったり訓練中という感じです。

海上自衛隊の護衛艦は50隻ちょっとです(数年前は54隻だった記憶があります)。そのうちインド洋に1隻を常時張り付けるためには、3隻を日本近海の防衛任務から外すことになります。中国の軍拡や尖閣諸島への中国船の侵入を本気で心配するのであれば、インド洋の海賊対処に貴重な3隻の護衛艦を割り当てるのは賢明ではありません。

自衛隊をインド洋に送るのはやめて、沿岸国の沿岸警備隊や警察の能力強化を支援する方がよいと思います。もちろんこれまでも日本政府は、海上保安庁やJICAを通じて海賊対策や治安対策に関わる援助を行ってきました。私もJICA職員時代に海上保安庁の方々といっしょにフィリピンの沿岸警備隊への技術協力に関わったことがあります。ODAによる沿岸警備隊や現地警察の能力強化の方が、海上自衛隊の高価な護衛艦や対潜哨戒機を派遣するより安上がりだし、長い目で見たら効果的だと思います。

海賊対策に海上自衛隊を送るのは、他に手段がない場合のやむを得ない措置です。本来は海上保安庁や警察庁の領域です。海賊も、四六時中海の上にいるわけではなく、拠点は陸だし、普段は陸で生活しているはずなので、現地の警察の強化も必要です。沿岸警備隊や警察の強化に協力の重点を移して、海上自衛隊の護衛艦と対潜哨戒機は早く帰国させて本来業務に戻すべきです。

海賊がほとんどいなくなったのに、大規模な基地をジブチに維持し、インド洋に護衛艦を派遣し続けるのは、「何か別の意図があるんじゃないか」と下衆の勘繰りでもしたくなります。たとえば、ペルシア湾でイランとアメリカが戦闘状態に陥った時に、集団的自衛権を発動して、米軍のサポートに自衛隊がすぐに駆け付けられるように、インド洋に展開し続けたいんじゃないか、とか。

別の意図がないのなら、海賊のいなくなった海に護衛艦や対潜哨戒機を派遣し続けるのは、税金のムダ遣いではないかと思います。変な誤解を招かないためにも、ジブチ基地の早期撤収を願います。インド洋の海賊対策は、自衛隊にとってあくまで臨時の一時的な措置です。専守防衛に徹するためにも、日本に戻ってきてほしいと思います。