安倍政権6年半をふり返る(15):空母は21世紀の戦艦大和

安倍政権の6年半をブログでふり返る参院選特別企画の第15弾です。2018年12月21日付ブログ「空母は21世紀の戦艦大和」の再掲です。防衛政策の方向性も防衛費の使い方も誤っていると思います。


空母は「21世紀の戦艦大和」

安倍政権は、新たな防衛大綱および中期防衛力整備計画を閣議決定しました。そのなかでも護衛艦「いずも」の空母化が話題になっていますが、これは愚策です。またしても安倍政権の誤った安全保障政策です。この愚かな政策決定のポイントは次の3つのキーワードで説明できます。

1)専守防衛より戦力投射能力を優先

2)実利よりプライド(虚栄心)を優先

3)現場の判断より政治の判断を優先

それぞれについて以下でご説明します。軍事マニア的な表現が多い点はご容赦ください。

1.専守防衛より戦力投射能力を優先

専守防衛の観点では空母は必要ありません。専守防衛のためには、空中給油機を増やしたり、弾道ミサイル攻撃に備えて滑走路の復旧資材を整備したり、戦闘機を守るシェルターを増やしたり、電子戦機EA-18Gを導入したり、先にやるべきことが多々あります。空母化はお金がかかるので、他の用途に振り向ける予算を削減せざるを得なくなり、かえって防衛力を低下させる可能性があります。

専守防衛のためでないとすれば、何のための空母化でしょうか? それは戦力投射(power projection)能力を高めるための空母化だと思います。英国は、フォークランド紛争時に空母とシーハリアー戦闘機を持っていたおかげで、遠く離れた南半球のアルゼンチン沖でアルゼンチン空軍から制空権を奪い、島への上陸作戦を敢行することができました。空母と垂直離着陸機の組み合わせは、戦力投射能力を高めるには有効です。しかし、日本にはフォークランド諸島のように遠く離れた領土はありません。陸上の基地から飛び立つ迎撃機や早期警戒管制機で対処できます。

空母化してF-35B戦闘機を搭載した「いずも」は、東シナ海やインド洋、ペルシア湾などで軍事的プレゼンスを示すことに使いたいのでしょう。日本の領海や領土を守るためではなく、遠く離れた海洋で戦力投射能力を示すために使われることが想定されます。要するに「日本も砲艦外交をやりたい」という政治家の幼稚な願望のための空母化です。専守防衛のためではありません。

また、ジブチに海賊対処の自衛隊基地を維持しているのも、今では軍事的プレゼンスを示すのが目的です(すでにあの海域には海賊はほとんどいません)。この手の軍事的示威行為は、幼稚な願望です。ジブチの基地も専守防衛には役立ちません。むしろ本土防衛の任務から護衛艦や対潜哨戒機(P-3C)を外すのは、抑止力の低下につながります。

*ご参考:2017年1月27日付ブログ「ジブチの自衛隊基地はまだ必要なのか?」

ジブチの自衛隊基地はまだ必要なのか?
インド洋のソマリア沖海賊に対処するために、日本政府は2009年から海上自衛隊の護衛艦2隻(現在は1隻に減)と対潜哨戒機のP3Cを2機派遣しています。対潜哨戒機のためにインド洋に面したアフリカのジブチに航空基地もあります。国連安保理決...

 

2.実利よりプライド(虚栄心)を優先

おそらく空母は時代遅れの兵器になりつつあります。無人機や無人潜水艦が実用化されると、図体が大きくてターゲットになりやすく、コスト高のアセットである空母の価値は低くなります。中国が空母をドンドン建造していることに関し、ある経済評論家が「中国が空母を建造するから、当然日本も対抗すべきだ」という趣旨のことを言っていました。まったくの勘違いです。中国が空母をドンドン造っている状況は、日本にとって天祐です。高価なわりに役に立たない兵器に大金をつぎ込めば、中国の軍事的脅威は低減します。空母は21世紀の「戦艦大和」だと思います。

元海上自衛官で在中国防衛駐在官を務めたことのある小原凡司氏(笹川平和財団上席研究員)は、「習近平『新時代』の安全保障上の意味」という論文のなかで次のように述べています。

中国は、訓練空母「遼寧」を有しているが、設計図もなしに修復した「遼寧」は、実戦に用いることはできない。推進システムに問題を抱える「遼寧」は稼働率が低く、中国海軍は空母運用に関して十分なノウハウが得られていない。艦載航空機部隊の錬成にも課題を残したままだと考えられる。

空母及び艦載機の作戦運用に係るノウハウが得られていないにも拘わらず、中国が空母を設計し建造するのは、米海軍との戦闘が目的ではなく、世界各地域に中国の軍事的プレゼンスを示すためである。

要するに中国は米海軍や海上自衛隊との戦闘を考えて空母を建造しているわけではありません。単にインドネシアやマレーシアのように空軍力や海軍力がそれほど強力ではない国を威圧するために空母を建造しているのでしょう。そういう意味では「中国が空母を建造しているから、日本も対抗しなくては」という発想は、誤った素人発想です。そして素人発想に毒されているのが自民党国防族議員です。

中国軍の弱点は対潜水艦戦だといわれています。第四世代の新鋭戦闘機をそろえ、ロシア製の近代的な駆逐艦を数多く建造し、戦力を強化しています。しかし、中国海軍の対潜哨戒機や潜水艦の戦力は貧弱です。

一方、米海軍や海上自衛隊の強みは潜水艦です。日本の潜水艦とその乗組員は世界最高の部類に入ります。米海軍の潜水艦よりも海上自衛隊の潜水艦の方が優れているかもしれません。米海軍には通常動力の潜水艦はなく、すべて原子力潜水艦です。原子力潜水艦は、長時間潜れるという利点がある一方、原子炉がうるさいという短所があります。日本の潜水艦は通常動力で静かで探知しにくいのが強みです。いずれにしても日米の潜水艦は世界最強の部類に入ります。中国の空母は、外洋に出たら日米の潜水艦にとって格好のターゲットです。

おそらく中国海軍の空母はいざ実戦となれば、日米の潜水艦が怖くて遠洋に出られないでしょう。戦史をひも解くと、第二次大戦中のドイツ海軍やイタリア海軍の艦隊は英国海軍の攻撃を警戒して港の外にあまり出ず、たいして活躍していません。中国の空母もそんな感じになるでしょう。毛沢東の言葉を借りれば、中国の空母は「張り子の虎」です。

役に立たない空母に多大な労力と資金を投入している中国海軍は賢明とはいえません。日本にとってはよろこぶべき愚行だと思います。しかし、残念ながら日本の政治家は、中国と同じ愚策を採用して、日本も軽空母を持つ方向に進んでいます。役に立たない空母にお金と人員を振り向けるのは愚策です。

 

3.現場の判断より政治の判断を優先

そもそも現状でも海上自衛隊や航空自衛隊は予算不足に悩んでいて、基本的な衣類や弾さえ不足しているといわれています。昔から「たまに撃つ、弾がないのが、玉にきず」という自衛隊川柳があり、練習用の弾も不足しています。米軍に比べて、練習時の撃つ弾の数が圧倒的に少ないといわれています。予算不足で訓練不足気味という現状を放置して、高価な買い物(F-35)をするのはどうかと思います。

海上自衛隊が以前から空母を持ちたがっているのは有名な話ですが、それでも予算不足の現状を考えると、「いずも」の空母化を望んでいる制服組は少ないと聞きます。現場の自衛官はもっと他のことに予算を使ってほしいと思っていることでしょう。

東京新聞の半田滋論説委員によると「いずも」の空母化は、自衛隊の要望ではなく、自民党主導の政策決定だったそうです。悪しき政治主導の実例です。イージス・アショアも自衛隊の現場では不評だと聞きます。現場の自衛官が望まないことを、(1)官邸主導で導入したのがイージス・アショアであり、(2)自民党主導で推進したのが「いずも」の空母化ということになります。

自衛隊が暴走しないように、シビリアンコントロール(文民統制)は重要です。同時に、変な政治家を暴走させない装置(国会とメディア)も重要です。いまの日本では、政治家の暴走をコントロールする装置が機能不全です。安倍総理と自民党国防族の暴走を止めるため、野党やメディアはもっとがんばらなくてはいけません。

以上に述べた理由から「いずも」空母化は誤りであり、すぐに軌道修正しないと「21世紀の戦艦大和」になってしまいます。中国の空母に対抗する必要はなく、冷静に判断した方がよいと思います。