「自民党は外交に強くて、野党は外交に弱い」は本当か?

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ある方から「野党も外交に強くなって下さいね」という激励のメッセージをいただきました。残念ながら、このメッセージは「野党は外交に弱い」という前提です。野党外交の実績といっても具体例はあまり思い浮かばず、そう言われても仕方ないかもしれません。

他方、ふと思ったのは「じゃあ、与党の自民党は外交に強いのか?」という点です。

自民党の某防衛副大臣の「心はイスラエルと共に」というSNS発信を見ても、「自民党は外交に強い」という前提はあやういです。政府高官には、中東和平に関するバランス感覚が必要ですし、日本政府の公式見解を反映した発信が求められます。防衛省のナンバー2がこのような発信をすることの重大さをわかっていないとすれば軽率だし、わかっていたとすれば確信犯的なのでより罪深いです。

かつて「外交の安倍」という言葉がマスコミ報道で踊りましたが、安倍前総理の外交は、ロシアのプーチン大統領にカモにされ、トランプ前大統領にべったり寄り添い、フィリピンで多数の市民やジャーナリストを非合法に殺したドゥテルテ大統領と親しくつき合う一方で、重要な近隣国との関係がさほど良かったとも思えません。安倍総理が核軍縮や気候変動等のグローバルな課題に前向きに取り組んだ印象もありません。

自民党議員のなかには「この人は外交センスがいいな」という人も確かにいます。超党派議員連盟の活動や衆議院の海外派遣などでご一緒した自民党議員のなかには、尊敬できる方も一定数います。しかし、私の衆議院議員生活約13年の経験から言うと、「外交センスがいい自民党議員」は必ずしも多数派ではありません。

むしろ外交センスに問題のある議員が自民党や政府の要職に就き、おかしな方向へ外交を歪めている事例も多いです。勇ましい言葉と薄っぺらな知識で武装したタカ派議員が多いのが、自民党の外交安全保障政策形成上の大きな問題です。

他方、「じゃあ、野党で外交センスがいい議員はいるのか?」と聞かれれば、ある程度いると思います。議員数は自民党の方が大きいです。衆参あわせて自民党の国会議員は388人に対し、立憲民主党は152人です。乱暴な前提で、同じ比率で「外交センスのいい議員」がいると仮定すると、分母が大きい分だけ、外交センスのよい議員は自民党の方が多いかもしれません。しかし、外交人材のプールという点で、野党が劣っているわけでもないと思います。

政権の座に就いていないので、野党議員のところには、外務省や経産省、防衛省などのルートから入ってくる情報量は少ないです。霞が関の有力官庁は、与党の有力議員や族議員(外交族、国防族、商工族)にまめに「ご説明」に行きます。その省の歴代大臣経験者や副大臣経験者にもまめに「レク」に行きます。そういった政府情報の流れに関しては、まちがいなく野党は不利です。しかし、霞が関の官僚機構に都合の良い情報だけをインプットされた国会議員のことを「外交通」と呼べるかといえば疑問です。

外務省や防衛省から最新の情報を得るのも有効です。同時に、在京各国大使館、各国の国会議員、NGOやシンクタンクの関係者、学者、ジャーナリスト、商社や援助機関の関係者などから情報を集めることも重要です。

あるいは、新聞、雑誌、学術誌や学術書などの公開情報を読んで自分なりに消化し、自分の頭の中にデータベースと相場観を作ることも大切です。インテリジェンス業界には「オープンソース・インテリジェンス」という用語がありますが、新聞や学術誌、インターネット等の公開情報に基づく分析でもかなりのことがわかります。

情報機関から重要なインテリジェンスを得たとしても、基本的な知識がなければ、そのインテリジェンスを活かした判断はできません。ブッシュ(子)大統領は、イラクのイスラム教徒にはスンニ派とシーア派がいて対立していることを知らなかったという噂があります。地理や民族・宗教などの基礎的な情報を知らなければ、適切な判断は難しいことでしょう。

政策決定に携わる政治指導者にとって勉強不足はそれ自体が罪です。基礎的な知識や情報を得る努力すらせずに、役所に都合の良い情報だけをインプットされている、自称「外交通」は永田町にときどきいて、その害悪は大きいと思います。ミャンマー情勢を見て「軍事政権との関係が悪化したら、中国の勢力が拡大するから困る」などと言っている自民党の大物議員は、そのたぐいだと思います。片方の情報だけを役所の「レク」という名の耳学問で得て、それをもって「情報通」だと思い込んでいる議員は多いです。

あるいは米国のいわゆる「ジャパン・ハンド」の提言をご神託のように崇める「外交通」も、ときに国益を損う可能性があります。国会議員のなかには一流大学を出て役所に入り、米国東部の名門大学で修士号を取得した「国際派」がたくさんいます。しかし、アメリカのエリートのことを知っている「米国通」であっても、アジアや中近東、ロシア・中東欧等にはあまり関心のない人もいます。英語がうまくて米国通なら「国際派」というわけでもないでしょう。英語が得意な米国人が「国際派」とは限らないのと同じです。

いまの自民党政権で外交安全保障に携わる国会議員のラインナップを見ていたら、野党議員の方がすごく劣っているという気はしません。しかし、野党が政権交代を実現して、その上で効果的な外交政策を実施するためには、野党のうちに準備しておく必要があります。政党として組織的に外交政策を調査研究して議論し、政府とは異なる視点で外交の選択肢を検討することも大切です。予算に余裕があれば、ドイツや韓国、台湾の政党のようにワシントンDCに立憲民主党の出先機関を設置して、米国議会や国連機関にロビー活動を行うことも必要だと思います。

また、個々の議員が、個人で努力して外交について学び、知識を身につけ、人脈を築いていくことも大切です。外交や安全保障政策で的確な判断をするためには、国際政治や歴史、地政学や地域研究、経済から気候変動、ODA政策から人権外交まで幅広い知識が必要です。問題が起こってから官僚にレクチャーしてもらっていては、付け焼き刃の知識で国際交渉に臨むことになります。いざ政権に就いた時に備えて地道に研鑽を積むことが大切だと思います。「立憲民主党は外交が弱い」などと批判されないよう、今のうちから準備したいと思います。

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