イギリスの議員射殺事件に思う

イギリスでEU残留派のジョー・コックス下院議員が、極右思想の持ち主の容疑者の男に射殺されました。政治的主張を封じるための殺人などあってはならないことです。議会制民主主義の生みの親ともいえるイギリスで、そういう事件が起こったことに驚きます。21世紀になっても世界は進歩するどころか、後退しつつあるのかもしれません。

コックス議員は、国際NGOのオックスファムの元スタッフでした。オックスファムといえば、NGO業界では老舗中の老舗です。イギリスでは小さな街にもオックスファムショップがあって、リサイクルやフェアトレードであげた収益で途上国援助や開発教育を行っています。オックスファムといえば、給水や公衆衛生の分野の専門性が高く、途上国援助の現場での存在感は大きく、私も若いころはオックスファムのマニュアルを熟読して勉強しました。

オックスファムのスタッフ時代のコックス議員は、アドボカシー(政策提言や啓発キャンペーン)を担当し、EU官僚へのロビー活動などを行っていたそうです。NGOスタッフとして行政官や政治家とやり取りするうちに、自分が政治家になって政策を実現しようと思い立ったのかもしれません。世界中でNGO(NPO)出身の政治家が増えています。社会の問題を解決しようと現場で活動していくなかで、法律や予算の壁にぶち当たり、政治家や行政にロビー活動を行っていくうちに、「自分で議員になった方が手っ取り早い」と思うようになるのだと思います。私もそうでした。

また、コックス議員は、シリア難民支援の問題に熱心に取り組んでいたそうです。私も現職議員時代は「シリア難民支援議員連盟」のメンバーでした。コックス議員には失礼かもしれませんが、私の方は勝手に親近感を持っています。同じようにNGOで途上国援助の仕事をして、同じように政治の世界に入って、同じようにシリア難民支援の活動に賛同し、年齢も近くて同世代です。国はちがっても考え方は近いように思います。一度お会いしてみたい議員でした。とても残念に思います。心からご冥福をお祈りします。

イギリスで起きた下院議員射殺事件は、いろんなことを考えさせる事件でした。イギリスに限らず、日本も含めて世界で不寛容が広がっているように思います。格差が拡大して不寛容が広がり、社会が分断され壊れていっているような感覚です。欧州でも排他的な極右が勢力を増しています。人種差別的な発言を繰り返すトランプ氏が大統領候補になるなんて、一昔前だったら想像もできないことだと思います。長年の多くの人たちの努力で民主主義や人権、自由が獲得されてきたのに、その流れに逆行する動きが世界で広がっているように感じます。

寛容な社会、人権や民主主義を守るために命をかけたのが、ジョー・コックス議員だったのだろうと思います。寛容な社会を守るための戦いが、いま世界中で行われているのかもしれません。寛容な社会、平和や人権、自由と民主主義を守るための戦いが、日本でも行われているという認識を持つ必要があると思います。残念ながら、こういう大げさな表現が必要な時代にすでに入ってしまったのだと思います。ヒトラーの横暴を許したのは、傍観者であった多くのふつうのドイツ国民です。傍観者になってはいけない時代なのだと思います。