新たな外国人材受け入れ政策について

今回の臨時国会では「入国管理及び難民認定法」の改正案が、安倍政権の目玉法案になっています。この法案には大きな問題があります。単純労働の労働力受け入れを拡大することによる問題もあれば、受け入れ体制の問題もあります。

単純労働者の受け入れ政策(移民政策)についてはメリットとデメリットがあります。個人的には、以下に述べる理由により、今回の入管法改正案(通称「移民法」)には反対です。

政府案の「人手不足が深刻だから外国人の若い労働者が必要だ」という理屈には説得力があります。中小企業の工場や農林水産業関係者にとっては切実な問題なのはわかります。

しかし、国全体のマクロの視点および長期の視点で考えれば、安易な単純労働力受け入れはデメリットの方が大きいと考えます。労働力人口の減少は、女性と高齢者の労働市場への参加率の向上、障がい者雇用の促進、省力化のための設備投資、生産性向上などにより、解決を図るべきです。

労働市場をマクロに見れば、単純労働の外国人移民が増えれば、賃金が下の方に引っ張られます。労働力人口はこの5年間で450万人も減りました。経済学の常識に照らせば、失業率は低下し、同時に、賃金は上昇して当たり前です。しかし、失業率は低下しても、実質賃金が上がりません。

賃金がなかなか上がらない理由のひとつは、すでに国内にいる外国人労働者(留学生、技能実習生、日系人など)が、低賃金労働でも文句をいわず働くためです。こういった外国人労働力は、労働組合を組織して雇い主と交渉するわけでもなく、悪条件でも文句を言えないケースがほとんどです。外国人労働者を低賃金で働かせることができるために、日本人の賃金がなかなか上がらなくなります。低賃金の外国人労働者を受け入れると、低賃金を前提とした産業構造が固定化してしまいます。

いったん受け入れた外国人労働者は、景気が悪化して失業率が下がったからといって、母国に送り返すことは簡単ではありません。これまでも日系ブラジル人等の日系外国人は外国人労働者として受け入れてきました。彼らは景気が悪くなると真っ先に解雇され、日本国内で失業し、生活保護を受けるケースも多々ありました。

日系人労働者の場合は家族もいっしょに来日し、さらに子どもが生まれることも多いですが、日本国籍ではない子どもたちは教育面でも不利な立場に置かれます。移民の子どもたちを教育するのは政府としては義務ですが、十分な受け入れ体制が整っているとは言いがたい状況です。国が面倒をみないので、地方自治体の負担が大きくなっているケースがすでに見られます。

外国人労働者と一緒に来日した配偶者や子どもの教育費や医療費などの社会的コストを考えると、外国人労働者受け入れのコストは人件費だけではありません。単純労働の外国人労働者を受け入れた企業は、安い人件費で雇えるのでメリットが大きいでしょうが、企業は社会的コストを負担しません。

外国人労働者受け入れに関わる社会的コストは、日本の納税者が負担することになります。社会的コストまで含めてオールジャパンの観点で見たら、単純労働の外国人労働者受け入れが経済的に割に合うか否かはわかりません。

東京新聞の久保穏論説委員氏は次のように述べます。

フランスの人口の一割を占める移民の同化政策は、直接的、間接的に財政を圧迫し、企業にとっても諸外国に比べて格段に高い社会保障負担となって、ひずみを生じさせている。かつては貴重な労働力として受け入れた移民が、逆に社会面、経済面で重荷となっている矛盾である。

*久保穏 2018年 「働き方改革の嘘」 集英社新書

これまで外国人労働者を受け入れてきた国々では、移民排斥運動、移民コミュニティの貧困化、社会的統合の困難さ、そして移民の一部がイスラム原理主義に染まりテロリスト(ホーム・グロウン・テロ)になるといった問題も起きています。ドイツもフランスもイギリスもどこも苦労しながら外国人労働者を受け入れてきました。そういった各国の苦労を見れば、受け入れ準備を十分整え、子女の教育、医療や年金等も考えることなしに、外国人労働者を安易に受け入れるべきではありません。

既存の「外国人技能実習制度」は、事実上の外国人労働者受け入れ制度になっています。この制度も問題です。失踪者が年間数千人もいるし、残業代が払われないとか、超過勤務が常態化していたりとか、ひどい働かせ方をしている例も多く報告されています。きちんと研修を受けながら、きちんと給料を出している雇用主も多いのですが、そうでない雇用主も数多く報告されています。

また、日本側の問題ではありませんが、外国人技能実習生の資格を得るために現地の悪徳仲介業者に多額の借金をして、賃金のかなりの部分を仲介業者に搾取されている外国人実習生も多いようです。ベトナム人の技能実習生のかなりの割合は悪徳業者に借金をして来日し、それを返済するために過剰な労働を強いられます。過労死や自殺した外国人技能実習生も数多くいます(正確な実態はわからないことでしょう)。

入管法改正により単純労働の外国人労働者の受け入れを拡大するのではなく、すでに日本国内にいる外国人労働者(日系人、技能実習生、留学生)の賃金水準や労働条件の改善を図り、さらに彼らの子女教育、医療、生活保護等の制度を整えるのが先だと思います。低賃金を強いられている技能実習生が、日本人と同等の賃金を得られるように待遇改善を図ることも必要です。

さらにマクロの労働市場を考えた上で人手不足解決策を考える必要があります。日本のあらゆる産業や職種で人手不足が起きているわけではありません。人手が余っている、あるいは、余っていることが疑われる産業や職種もあります。弁護士は増え過ぎたといわれていますし、お笑い芸人やミュージシャンが不足しているようにも感じません。要するに高収入の仕事や人気の職業では人手不足は起きていません(常識的に考えて)。

たとえば、介護分野は人手不足ですが、介護職の給与水準を月8万円くらいアップして全産業平均に近づければ、人手不足はかなり解消されると思います。枝野代表は、介護士さんや保育士さんの給与水準が低すぎるのでそれを大幅に底上げすることを10年以上前から訴えています。給与水準が上がれば、保育士不足だって解消されると思います。低賃金を前提に「安い外国人労働者を入れよう」という発想は不健全です。低賃金を解消して日本人の雇用の質を上げることを最優先するべきです。

外国人労働者をいったん受け入れると、景気が悪くなったり、人手不足が解消されたからといって、外国人労働者を無理やり母国に送り返すことは許されません。リーマンショック不況の時には日系ブラジル人労働者は解雇され、さんざんな思いで母国に帰ったり、日本にとどまって生活保護を受けたりというケースが多く見られました。雇用の安全弁として外国人を使い捨てる発想は許されません。外国人労働者も人間です。日本人労働者と同等の扱いをできないのであれば、外国人労働者を受け入れるべきではありません。

また、ここ数年は「AIでなくなる仕事」みたいなニュースをよく耳にします。銀行業界では窓口業務や経理処理のAI化が進み、新規採用をかなり抑制し、人員削減が進んでいます。投資銀行ではAIの判断の方が、ディーラーの判断より信頼できるようになり、「5人のディーラーの首を切り、1人のAIエンジニアを雇って代替する」といった状況も生まれているそうです。自動運転技術の進歩を見ていると、あと10~15年もしたらバスやタクシーの運転手さんはほとんど自動運転に代替されるかもしれません。

不況や省力化投資による人余りが生じたら、外国人労働者を送り返すといった身勝手な政策は許されません。その意味でも安易な単純労働者の受け入れ拡大には慎重になるべきです。

労働力不足解消策はいくつもありますが、私は次の優先順位で取り組む必要があると思います。

1)女性の労働参加率を高める政策(女性が働きやすい環境の整備、女性差別の禁止)

2)高齢者の労働参加率を高める政策

3)障がい者の就労を促進する政策

4)省力化投資を促進する政策(AI活用含む)

5)人手不足の産業の賃金を上げる政策

また、外国人労働者とは別の問題として、紛争や政治的迫害を逃れて日本に亡命してきた難民の受け入れは拡大すべきだと思います。日本は難民に冷たい国です。難民条約を締結しているのに難民に冷たいのでは、国際社会(特に先進民主主義国)から信頼されません。人道的な難民受け入れは拡大すべきです。

以上、党の方針ではなく、私見を述べさせていただきました。