歴史はくり返す:日本銀行の「失敗の本質」

クイズです。次の文章は、いつ書かれたものでしょう?

(問)国債がこんなに激増して財政が破綻する心配はないか。

(答)国債がたくさん増えても全部国民が消化する限り、少しも心配は無いのです。国債は国家の借金、つまり国民全体の借金ですが、同時に国民がその貸し手でありますから、国が利子を払ってもその金が国の外に出ていく訳ではなく国内で広く国民の懐に入っていくのです。(中略)従って相当多額の国債を発行しても、経済の基礎がゆらぐような心配は全然無いのであります。

答えは、1941年10月です。

大政翼賛会が全国の隣組に宣伝読本「戦費と国債」を150万部配布し、その中に出てくるのがこの文章です。この文章は、アベノミクスの推進者(リフレ派)やMMT(現代金融理論)支持者の発言と驚くほど一致しています。

この宣伝読本が配られた直後の1941年12月に日米は開戦しました。終戦後に国債が紙くず同然になったことは言うまでもありません。「戦費と国債」を読んで真に受けて国債を買った庶民は、なけなしの貯えを失いました。

この文章は、朝日新聞社の原真人氏の「日本銀行『失敗の本質』」という新書に出てきます。この本は、日銀の失敗というより、アベノミクスの「失敗の本質」という感じの本ですが、わかりやすく整理されていて、お薦めです。

名著の誉れ高い「失敗の本質:日本軍の組織論的研究」に出てくる日本軍と日本銀行を比較しながら、安倍政権の金融政策の失敗を詳述する本です。私も「失敗の本質」は2回読んだ記憶がありますが、「日本的組織の無責任さ」を理解するには最適の本だと思います。現在の日本銀行にも、帝国陸海軍と同じ無責任体質が蔓延していることがわかります。

原氏は、アベノミクスが始まる直前からアベノミクスを批判してきました。左派的な批判ではなく、経済学の主流の立場からの批判です。異次元の金融緩和は、最初の頃はキワモノ扱いだった記憶があります。2012年ごろはリフレ派の経済学者やエコノミストは少数派だったと思います。

ふり返ってみると金融緩和も最初の2年くらいは効果的で、副作用もさほどなかったと思います。しかし、異次元の金融緩和が長期化して拡大して、今はかなりまずい状況だと思います。

金融緩和は「需要の先食い」という側面があり、不景気の時には短期的には効果的です。しかし、長期化すると効果が薄れます。カンフル剤のような政策を長期間続けると副作用が心配です。

黒田総裁は「2年以内に2%のインフレ率を達成する」と豪語して就任しましたが、6年たっても目標は達成できていません。理論がおかしかったのか、前提がおかしかったのか、わかりません。しかし、確実に言えることは、早めに方向転換をしなくてはいけないということです。

出口戦略もなく、戦争に突入してしまい、最初の1~2年は調子よかったけれども、だんだん状況が悪くなり、悪くなっても方向転換できず、ボロボロになって敗戦というのが、太平洋戦争でした。いまの日本銀行の金融政策に重なります。戦力の逐次投入も似ています。

経済的な破局が訪れる前に、出口戦略を考えなくてはいけません。敗戦の歴史から何の教訓も得られなかった日本ということにならないよう、金融と経済政策の転換が必要な時期に来ています。手遅れになる前に安倍政治をストップしなくては、敗戦直後と同じように国債が紙くずになり、国民が窮乏生活を送ることになる可能性があります。ポストアベノミクスの経済財政政策を今から用意すべきです。

*参考文献:原真人、2019年、「日本銀行『失敗の本質』」、小学館新書