安倍政権6年半をふり返る(8):アベノミクスの検証

安倍政権の6年半をブログでふり返る参院選特別企画の第8弾です。2017年6月18日付ブログ「アベノミクスの検証と次の選挙の対立軸」です。日本経済新聞に載ったアベノミクスの検証記事ですが、2年たった今でも十分有効だと思います。

「やってる感」の演出がうまい安倍政権ですが、実態を見るとほとんど効果がありません。支持率アップのためにあらゆる政策手段を動員しますが、実態経済の改善にはまったくつながっていません。

安倍総理が必死になって野党批判、民主党政権批判をくり返すのは、誇れる実績が少ないことの裏返しです。6年半も総理をやれば誇れる実績がたくさんあって当然ですが、それがないので6年半以上前の民主党政権批判へ逃げているだけです。


アベノミクスの検証と次の選挙の対立軸

ちょっと前の日本経済新聞(2017年6月10日朝刊)で骨太方針決定にからめ、アベノミクスの検証記事を見かけました。日経新聞といえば、“財界広報誌”というイメージがあり、安倍政権やアベノミクスを高く評価している印象がありました。その日経新聞が、わりとアベノミクスを低く評価しているのでびっくりしました。記事から興味深く思った部分を抜粋してみます。

見出しから批判的です。

アベノミクス5年 経済の力低下

社会保障・財政『落第』

意外と辛らつなのでおどろきました。

あれから4年。日銀の推計は、日本経済の姿を冷徹に映している。足元の潜在成長率は0.69%。経済の実力は上がるどころか、14年度下期(0.84%)からむしろ下がっているのだ。

安倍政権の実質経済成長率の方が民主党政権の実質経済成長率よりも低いことはそこそこ知られていますが、あらためて再確認できます。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは『極端な財政出動などが経済の資源配分をゆがめ、生産性を落とした』と警鐘を鳴らす。

地元の住宅地を回っていると、新築住宅や新築アパートの工事の多さに驚きます。金融緩和・低金利政策により、不動産投資が激増しているのでしょう。プチバブル状態です。民間の住宅投資が増えているのに、東京オリンピック・パラリンピックもあり、財政出動でコンクリートの公共事業をジャンジャンやれば、建設業は儲かっているかもしれません。

しかし、建築資材が高騰したりして、本当に必要な建築工事ができないところも出ています。うちの娘が通う私立幼稚園では、老朽化した校舎を建て直す予定だったのに、建築資材の高騰で当初予算では足りなくなり、建て直せなくなったそうです。異常な低金利と財政出動による公共事業の増加が、資源配分のゆがみをもたらしているように思います。不動産バブルの崩壊も心配です。

日経新聞らしく安倍政権の法人減税は高く評価しています。

法人実効税率を7%超下げた法人税改革が3.3点(*引用者注:5点満点の3.3点の好評価)と続いた。減税などで収益力は高まったが、企業はカネをため込む一方。3月末で企業の内部留保も390兆円と政権発足時から4割増加。内部留保解消の有効策は見えない。

私にとっては、法人減税はダメな政策変更だと思います(「改革」とは言いません)。この30年ほどの間、日本は新自由主義的な経済政策をとり、法人減税を一貫して下げてきました。その結果、税収が落ち込み、歳出削減に追い込まれてきました。

経団連は「法人税を下げないと、国際競争力が弱くなる」と主張してきましたが、法人税率と企業の国際競争力はそれほど関係がないことが各種の研究により段々と明らかになってきています。欧州の国際競争力の強い国で法人税率が高い国はいくつもあります。

法人税を下げて、企業収益が上向いても、労働分配率は上がらず、働く人の実質賃金は上がりません。内部留保が積みあがるばかりで、経済成長や労働者の生活の改善にはつながりません。法人税の減税は失敗だと思います。

ほぼ落第点に近い評価が社会保障改革(2.2点)と財政健全化(2.1点)だ。選挙を前に増税を先送りしたり、社会保障の充実を約束したりする「選挙優先」で取り組みが遅れている。

日経にしては厳しい評価だと思います。

そして骨太方針の分析によれば、安倍政権はさらに歳出拡大に布石を打っているようです。引き続き経済成長を優先し、消費税増税をさらに先送りする可能性も指摘されています。次の衆院選の直前にまたしても「消費税増税延期について国民の信を問う」と言い出す可能性もあるようです

骨太方針を読むと次の総選挙の対立軸が少し予想できそうです。安倍政権は「人材への投資」を骨太方針の柱にしました。民進党がずっと訴えてきた「人への投資」のパクリであり、「抱きつき戦略」に他なりません。したがって、民進党の「人への投資」は選挙の主要な争点から外れることになります。安倍政権は上手です。しかし、それで「人への投資」が加速するなら、民進党が主張してきた意義はあります

安倍総理がさらに消費税増税の先送りを決めるとすれば、総選挙の争点になるでしょう。民進党が検討している「尊厳ある生活保障」の政策パッケージは、増税を選択肢に入れ、税収増を社会保障や「人への投資」に振り向けることを想定しています。消費税が8%から10%に上がる時に、増えた税収で子育て支援や教育、介護や医療サービスを充実させる方針になるでしょう。

安倍政権が「経済成長を優先し、増税から逃げる」という立ち位置になり、民進党は「国民生活を優先し、増税から逃げず、社会保障の充実をめざす」という立ち位置になることでしょう。ハッキリとした対立軸ができます。むかしから「選挙で増税を訴えると負ける」というのが政治の世界の常識ですが、その常識に立ち向かうべきだと思います。

逆説的ですが、経済成長最優先で4年半やってきた安倍政権のもとでは、経済は成長しませんでした。格差は広がり、非正規雇用は増え、将来不安を抱えて消費にお金が回らない状態が続いています。近年の研究によると、格差拡大が進むと、経済が成長しなくなると言われています。むしろ経済成長を優先せず、格差の是正や生活不安の解消につながる公的サービスの充実が、結果的に経済を成長させる可能性が高いと思います。北欧等を見ていると「経済成長よりも生活保障を優先したら、不思議なことに経済も成長する」という逆説的な現象が起きているように思います。アベノミクスと新自由主義的な政策からの転換が、次の衆院選のテーマになってくるかもしれません。