被災地の巨大防潮堤は必要だったのか?

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東日本大震災から10年がたちます。復興は重要なテーマですが、その進め方については一部に疑問があります。特に問題なのは巨大津波に備える防潮堤です。お金がかかって景観を損ねるわりに、住民の生命を守るのに役立つのか、あるいは、費用対効果の面で有効なのか疑問でした。

それに関して、土木がご専門の京都大学の今本博健名誉教授がインタビューに答えていた記事が参考になったので、引用しながら紹介させていただきます。

(問い)東日本大震災から十年がたちますが、この間の復興事業のあり方に、どんな問題がありましたか。

(今本氏)「国土強靭化」の名のもとにたいして批判もされず実施されてきた。十年という節目に、復興とはなにか、被災地にとってベターなことはなにかを検証するべきだ。この間は、あまりにもムダが多かったと思う。強靭化という用語の持つ問題点は、言葉の意味そのものは悪いことではないため、反対しづらいという点だ。その陰で、実際には効果のあまり期待できない公共事業が山のように行われた。

日ごろから何となく感じていたことを土木の専門家が明確にコメントされると納得できます。今本教授は「ムダの代表例」として防潮堤をあげます。東北の沿岸部に400キロメートルにわたって整備された巨大防潮堤について次のように述べます。

景観や潮流への懸念が指摘されているが、深刻な問題は寿命だろう。コンクリートは人類がみつけた優れた建設材料だが、耐用年数については完全にはわかっておらず、すでに各地の橋梁やトンネルなどが完成から数十年程度で崩れ始めている。東北を十数メートル級の津波が襲う地震が数百年に一度起きるという通説に照らすと、突貫で造った防潮堤が、それまでもつかは怪しいと言わざるをえない。ダムのように厳格な施工管理が行われておらず、劣化は早いと考えるべきだ。

私はかつて発展途上国で道路補修プロジェクトの現場監督的な仕事をしていたときに、工業高校の高校生向けのコンクリート工学の教科書(入門書)を買って勉強した記憶があります。コンクリート工事の施工管理はむずかしく、水回りは特にむずかしいことくらいは理解しています。海の中にコンクリートの構造物を造るのは相当むずかしいだろうということは想像はできます。おそらく劣化も早いでしょう。

(問い)巨大公共事業は被災地の望みでもあったのではないでしょうか。

(今本氏)被災地と言っても、多くの場合は政治家や土建業を営む有力者たちが望んだ。たしかに多くの作業員が訪れ、繁華街も含めて一時的にはそれなりに潤う。しかし、終わった後はむしろ悲惨だ。地元住民の意識も変わってしまうことで、事業の終了による反動により、衰退のスピードが早まる可能性がある。そのような副作用は今後、東北の主に沿岸部で出てくるだろう。

震災から10年たってそのような被災地が多いのだと思います。政治家にも重い責任があります。

(問い)なぜ土木事業を重視する復興がまかりとおるのでしょう。

(今本氏)復興計画を作る官僚は、いまだに「いくら予算を獲得、執行したか」に血道をあげる。震災の直後には、予算が通りやすく、平時では無理な防潮堤建設にもゴーサインが出る。災害に乗じる、そうした官僚の責任は重い。

私の専門の河川行政も同様で、毎年のように深刻な洪水が発生し、そのたびにダムの非力さが露呈しているのに、いまだにダム偏重の方針が変わらない。官僚の習い性だが、これに政治家も乗じて、東日本大震災では10年間で32兆円もの予算がつぎ込まれた。いまこそ内容を検証しなければならない。

地球温暖化(気候変動)による災害の激甚化が進んでいます。それに乗じて「国土強靭化」の美名のもとで、またダムや防潮堤を造るべきという声があがることでしょう。災害激甚化への適応にあたっても、ダムなどのコンクリート偏重にならないよう注視していかなくてはいけません。

最後に今本教授は「安易な復興ではなく、被災地の草の根の人たちが望む声に耳をかたむけなければならない」と結びます。まったく同感です。

震災に乗じる政治家や官僚の言動には警戒し、被災地の人たちの声に真摯に耳を傾けて、地域住民が主体となった復興や防災のあり方をめざすことが大切だと思います。

*参考文献:巻頭インタビュー「被災地『公共事業』はもう止めろ」(「選択」2021年3月号)

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