バイデン政権のグリーンニューディール

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米国では「地球温暖化は嘘だ」と言っていた嘘つき大統領が退任し、バイデン政権になり、気候変動政策は大きく変わりました。その具体的な内容が、明日香壽川教授(東北大)の近著「グリーン・ニューディール」に書いてあったので一部ご紹介します。

バイデン氏が勝利した大統領選挙の公約は、地球温暖化対策を非常に重視し、野心的かつ急進的な内容でした。バイデン大統領は当選後すぐに政府を横断する組織として「ホワイトハウス環境正義委員会」を新たに設置しました。

気候変動に関する大統領令には「環境正義(environmental justice)」という言葉が24回も出てきます。最近の気候変動の議論においては「正義(justice:ジャスティス)」という言葉がキーワードになっています。日本語では「正義」または「公正」という感じですが、日本人の感覚では気候変動と「正義」はすんなり結びつかないと思います。明日香氏の解説によると、気候変動における「正義」は次のような意味合いです。

気候変動の文脈でのジャスティスは、主に、①一人当たりの温室効果ガス排出量が小さい途上国の人々が、一人当たりの温室効果ガス排出量が大きい先進国の人々よりも、気候変動によってより大きな被害を受ける、②先進国のなかでも貧困層、先住民、有色人種、女性、子どもが現実としてより大きな被害を受ける、③今の政治に関わることができない未来世代がより大きな被害を受ける、の三つの意味で使われる(どれも定量的な事実である)。この三つの状況がアンジャスティス(不正義)であり、このような状況を変えることをジャスティスの実現とする。

日本人にとっては、①発展途上国と先進国の不公正、③未来の世代への公正、は理解しやすいですが、②国内の貧困層や少数民族との格差は理解しにくいかもしれません。米国内ではわかりやすい議論なのかもしれません。

バイデン政権のグリーン・ニューディールのポイントは以下の3つです。

1)2050年に米国全体の温室効果ガス排出実質ゼロ

2)2035年に電力分野の温室効果ガス排出実質ゼロ

3)四年間で2兆ドル(約210兆円)の投資による雇用創出およびジャスティスの達成

まず2050年に温室効果ガス排出ゼロの目標は日本と同じです。と言うよりも、菅政権がバイデン政権の真似をしたので同じになったと言うべきでしょう。これは妥当なラインだと思います。

次に2035年に電力分野の温室効果ガス排出ゼロはかなり野心的な目標です。日本の環境NGOが日本政府に要求しているのが、2030年に電力分野の再生可能エネルギーの割合を40~50%にするという目標です。日本のNGOよりも、米国政府の方がより野心的ということに驚きます。日本のNGOの要請が慎ましく見えてしまいます。日本政府はせめて環境NGOの要求並みの目標値を設定すべきです。

米国の方が日本よりGDPが大きいとは言え、4年間で210兆円の投資はすごいと思います。再生可能エネルギー、建物の断熱化(省エネ化)、電気自動車の普及等に投資をする計画ですが、それにより雇用を拡大し、経済を成長させることを意図しています。米国ではグリーン・ニューディール政策が、経済成長戦略の柱になっています。雇用創出の面でもグリーン・ニューディールは有望です。

バイデン政権では気候変動対策に関する新たなポストや組織もできています。新たに「気候変動担当大統領特使」というポストができ、大物政治家のジョン・ケリー上院議員が任命されました。省庁横断的な組織として「国内気候政策局長」というポストが設けられ、オバマ政権で環境保護局長官を務めたジーナ・マッカーシー氏が任命されました。

バイデン政権は、気候変動問題を外交・安全保障上の最重要課題として取り組む姿勢を示し、その一環として「気候変動担当大統領特使」のポストが設けられたのだと思います。かつては気候変動に関する国際会議で、米国、ロシア、カナダ、日本の4か国が足を引っ張ることが多く、京都議定書の延長の設定などに反対していました。この四カ国を「悪の四人組(Gang of four)」と呼ぶ研究者もいたほどです。しかし、米国が「悪の四人組」から完全に離脱しました。カナダも最近は前向きです。日本も気をつけないと「悪の二人組」になりかねません。

またバイデン政権のグリーン・ニューディールは、環境正義の視点に立ち、貧困層への支援やマイノリティーへの配慮が重視されています。石炭火力発電所などで働いている人たちへの支援も政策の柱のひとつになっています。気候変動対策で不利益を被る人たちも一定数いるのは事実なので、そういった人たちへの支援策は大切です。日本でも気候変動対策で不利益を被る労働者や企業、地域への支援策もあわせて検討することが重要です。

米国ではトランプ政権からバイデン政権への政権交代により、気候変動対策が大きく変わりました。政治が変わると、社会が大きく変化します。米国の場合は、政治が変わったことで、より良い方向に向かっていると思います。日本でも同じことが起きることを期待しています。

*参考文献:明日香壽川 2021年「グリーン・ニューディール」岩波新書

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