私のお薦め:ドイツ型の小選挙区比例代表併用制

このところ衆議院選挙制度の改革が話題です。2020年国勢調査をもとに小選挙区の「1票の格差」を計算すると、人口が最小の鳥取2区と最多の東京22区では2倍以上の格差があり、「10増10減」の区割り変更が必要です。

大島理森衆議院議長も「選挙制度は変えた方がいい」と発言しています。ではどんな選挙制度が衆議院議員選挙に望ましいのでしょうか? 私は「ドイツ型の小選挙比例代表併用制」が望ましいと考えます。

まず「小選挙区制だと政治家が小粒になる」という俗論を否定します。そもそも「小粒」や「大粒」の定義がわかりませんが、反証するには「チャーチルもサッチャーも単純小選挙区制で当選した」という事実で十分だと思います。

私は、小選挙区制(=単純小選挙区制)よりも、比例代表制の方が望ましいと思います。比較政治学者のアーレンド・レイプハルト氏は、36か国の民主主義国を比較研究して次のように分類しました。

 小選挙区制 ⇒ 二大政党制 ⇒ 多数決型民主主義

比例代表制 ⇒ ゆるやかな多党制 ⇒ コンセンサス型民主主義

アメリカやイギリスで典型的に見られる単純小選挙区制は、二大政党制を招く傾向があります。第三党以下は生き残りがむずかしいからです。ただし、スコットランド独立党のような地域政党が出てくる例外的なケースもあり、一時的にイギリスの自由民主党が一定の議席を占めたこともありました。

日本の衆院選は小選挙区と比例代表の連用なので、二大政党のほかに小政党にも生き残る余地があります。その結果として日本は二大政党制でもなく、ゆるやかな多党制でもありません。中途半端です。

ドイツの小選挙区比例代表併用制は、小選挙区制の要素を加えているものの、比例代表制の性格が強い選挙制度です。政党の得票数に応じて全議席が比例配分されますが、各政党では小選挙区で当選した候補者に優先的に議席が与えられます。しかし、小選挙区で落選しても、政党の得票数に応じて比例配分される議席で当選するケースもあります。

たとえば、ドイツのヘルムート・コール元首相は小選挙区で4回落選し、そのたびに復活当選しています。ドイツの政党は、選挙に弱くても重要な人物を比例名簿の上位に載せて、地元活動よりも国全体のことを考えさせようという姿勢なのだと思います。

ドイツの小選挙区比例代表併用制は、小選挙区をベースにして地域代表の要素を持たせつつも、比例代表部分の結果から政党に議席が配分されます。したがって、基本的には比例代表制的な選挙制度と言えます。

アメリカやイギリスの共和党と民主党、保守党と労働党といった二大政党制に基づく「多数決型民主主義」は、政権交代により大胆な政策転換を可能とする一方で、政策の継続性は保ちにくく、一長一短があります。少数意見が反映されにくいのも欠点です。

比例代表制は少数意見が反映されやすく、4~6の有力政党が存在する例が多いです。二大政党制とゆるやかな多党制のどちらが望ましいかという議論は昔からあります。アーレンド・レイプハルト氏は、多数決型民主主義よりもコンセンサス型民主主義の方が、女性の政治参加、投票率などの点で優位にあり、民主主義の質が高いと主張します。

中選挙区制というのは世界ではそれほど例がなく、中選挙区制にはこれといった長所がありません。中選挙区制復活論者は単なるノスタルジー的な理由しか述べません。最大の欠陥は、同じ政党で同士討ちになり、政策論争よりも、サービス合戦や利益誘導の争いになることです。同じ政党の候補者同士で戦うので、理念や政策の差はありません。差別化要因は、人柄とか、利益誘導とか、知名度になります。冠婚葬祭やバス旅行等のサービス合戦にはお金がかかります。

中選挙区時代は1回の選挙で何億円も使うのがふつうだと言われていました。小選挙区制の今の相場と比較すれば、政治資金のケタがひとつ違います。例えば、今どきの都市部の小選挙区の衆院選には1~2千万円かかり、それはそれで大きな負担ですが、中選挙区時代の億単位よりだいぶ楽です。

さらに政党助成金制度のおかげで、ふつうの人も公募で立候補しやすくなりました。私が立候補できたのは、政党交付金のおかげです。中選挙区時代だったら普通のサラリーマンが公募で立候補するなんてほとんど考えられませんでした。当時は、派閥の一本釣りの官僚候補や、2世・3世の世襲候補が断然有利な時代でした。小選挙区制と政党助成金ができたおかげで、国政への参入障壁が低くなったことは間違いないです。その点は中選挙区から小選挙区への転換で良かった点です。

しかし、私は小選挙区制は望ましくないと思います。第一に、いわゆる「死票」が多くなり、その結果として有権者の関心が低くなりがちで、低投票率を招きます。中選挙区時代に比べて小選挙区制導入後は一貫して投票率が低下しています。欧州の比例代表制の国の投票率は概して日本より高いです。

第二に、小選挙区制が導く「多数決型民主主義」よりも、比例代表制のもとの「コンセンサス型民主主義」の方が、民主主義の質が高いとされる点です。「多数決型民主主義」の米国が、理想的な政治をやっているようには見えません。

たとえば、コロナ危機で世界の称賛を浴びたニュージーランドは、かつては単純小選挙区制でした。しかし、小選挙区制で議員に選出されるのは白人男性が主であり、女性やマオリ族等が選出されにくいことが問題視されました。その状況を変革するため、ドイツ型の比例代表併用制を導入しました。選挙制度改革の影響もあってか、ニュージーランドのアーダーン首相は女性で37歳の若さで首相に就任しました。アーダーン首相のもとでニュージーランドはコロナ対策の優等生です。

私が望ましいと思う比例代表併用制の本場のドイツでは、首相が女性のメルケル氏です。メルケル首相は、保守党の党首でありながら、原発ゼロを一気に実現したり、難民を積極的に受け入れたり、欧州グリーン・ディールを主導したりと、ドイツ史に残る名宰相だと思います。

ニュージーランドやドイツの首相の優秀さを見ても、ドイツ型の小選挙区比例代表併用制の良さがわかると言えるかもしれません。もちろんドイツの歴代首相のなかにもそれほど成果を上げていない首相もいたかもしれませんが、コール首相やアデナウアー首相など印象に残る名宰相を何人も生んでいます。「首相の平均点」という観点ではドイツの選挙制度は優秀だと思います。

日本では戦前も最近もほぼ1年ごとに首相が代わっていた時期も長く、歴代最長政権は安倍政権だし、日本の「首相の平均点」は低いです。原敬や吉田茂のように立派な業績を上げた首相もいますが、名前も思い出せない短命政権の首相が大多数です。そういう意味でも「選挙制度の質」という点では、日本の小選挙区比例代表連用制よりも、ドイツ型の小選挙区比例代表併用制の方がすぐれているように思えてなりません。なお、中選挙区制は論外です。