世界で広がるWHO推奨「砂糖税」を日本でも

世界では「砂糖税(sugar tax)」を導入する動きが広がっています。WHO(世界保健機関)は、肥満や糖尿病などのリスクを減らすため、砂糖を多く含む飲料への課税(taxes on sugar-sweetened beverages:SSBs)を推奨しています。国によってはフィンランドのように「砂糖税」ではなく、「ソフトドリンク税」と呼ぶ国もあるように、飲料への課税という点が特徴的です。一義的には健康のために導入する国が多いのですが、一部の国は税収増も主な目的にしています。もちろんWHOは健康のための導入を提唱しており、課税による価格メカニズムの作用で砂糖摂取量を減らすことをねらっています。世界ではすでに約50か国で砂糖税が導入されており、成功した政策イノベーションと言ってよいでしょう。

イギリスの砂糖税の例をあげます。イギリスでは「ソフトドリンク産業課税(SDIL:Soft Drink Industry Levy)とも呼ばれます。2016年3月に同税導入が発表され、2018年4月から課税が始まりました。後述しますが、発表から実施までの2年のタイムラグが重要なポイントです。

イギリスでは砂糖税により年間一人あたり6,500キロカロリーの削減につながったとされます。体重を1キロ落とすのに必要なカロリーが約7,200キロカロリーとされるので、年間6,500キロカロリーの削減はバカにできません。ソフトドリンクを大量に飲む人ほどカロリー削減効果が高い可能性もあります(私などは日ごろほとんど飲まないので課税されてもさほど影響はありません)。

イギリスの砂糖税は、砂糖の配合量によって税額が異なります。100ミリリットルあたりの砂糖が8グラム以上だと、税額は1リットルあたり24ペンスになります。100ミリリットルあたりの砂糖が5グラム以上だと、税額は18ペンスです。そして100ミリリットあたりの砂糖が5グラム未満だと課税されません。この制度設計が大きな意味を持ちます。

イギリスの飲料メーカーは、砂糖税導入の発表から実際の導入までの2年のタイムラグの間にソフトドリンクのレシピと品ぞろえを大幅に変え、課税されないソフトドリンクの種類を大幅に増やしました。特に砂糖の含有量が5グラム未満で非課税のソフトドリンクのブランドを大幅に増やしました。課税されたソフトドリンクは、砂糖税導入前に比べて18%の売上げの減少が見られました。しかし、課税されない製品はそれほど売上げは減りませんでした。なお、前述の6,500キロカロリー削減の80%は、ソフトドリンク製品のラインナップの変更によるものです。

事前に予想されたほどの税収増にはつながりませんでした。イギリスの財務当局は砂糖税の税収を5億2000万ポンドと見込んでいましたが、実際には3億3600万ポンドにとどまりました。思ったほど税収増には貢献しませんでしたが、消費行動の変容にはつながりました。結果として肥満や糖尿病、心疾患などの減少と、それによる医療費削減につながれば、政策としては成功と言えるでしょう。

ちなみに加糖していない果物100%のジュースなども課税されません。ソフトドリンクの代替品としてフルーツジュースの売上げが伸びた可能性は高いですが、100%のフルーツジュースであれば健康上の害は少なく(あるいは健康によく)、砂糖税の政策目的に合致します。

イギリスでは砂糖税(ソフトドリンク課税)の成功を受けて、塩分の高い食品への課税を提唱する動きも出てきました。砂糖を多く含む食品への課税まで議論されているそうです。いまのところソフトドリンク課税にとどまっていますが、先行きはわかりません。砂糖税が導入されてわずか数年であることを考えれば、「食塩税」も決して非現実的とは言えないかもしれません。

日本でも砂糖税は有益だと思います。その際、単なる増税ではなく、健康増進のための税であることを強調し、税収の一部をわかりやすくて国民の理解を得やすい目的に支出するのも手だと思います。たとえば、学校給食の無償化を進める財源としたり、就学援助の増加につながるような制度するといった工夫も必要だと思います。

砂糖税は砂糖消費量を減らすことが目的です。それによって不利益を被る人たちのことも考えなくてはなりません。特に国内の砂糖産業への打撃を緩和する施策が必要です。テンサイはほぼ100%北海道で栽培されており、北海道の一部地域ではテンサイが地域の農業を支えています。国境離島を含めて沖縄県や鹿児島県の離島の重要な産品であるサトウキビも悪影響を受けます。本当は「国産砂糖は免税」といった措置がとれれば簡単ですが、WTO協定違反の恐れがあるため、テンサイとサトウキビの産地の地域振興の補助金や支援スキームを検討し、砂糖税の一部にあたる金額を支出することも有効でしょう。

さらに砂糖税の直接的な目的ではありませんが、ソフトドリンクへの課税強化はペットボトルや缶ジュース・缶コーヒーの需要を減らし、マイクロプラスチック削減にも役立つ可能性があるでしょう。

WHO欧州事務局の調査報告は、砂糖の摂取量を減らすために砂糖の配合量に応じた課税を提唱し、税の制度設計にあたっては保健当局と財務当局が密接に連携しながら砂糖税を導入することを推奨しています。日本では厚生労働省と財務省、さらにテンサイ農家やサトウキビ農家への支援策を含めて検討するため農林水産省や総務省とも連携し、日本の実情にあった砂糖税を設計していくとよいでしょう。

実は砂糖税を導入するとしても「初登場」ではありません。かつて砂糖税は重要な財源でした。1913年(大正2年)の租税収入に占める「砂糖消費税」の割合は4.5%と意外と高かったそうです。当時の税収は、所得税7.6%、酒税19.9%、関税15.7%などが主な財源でした。イギリスの砂糖税から推測すると、イギリス人ほどソフトドリンクを飲まない日本の現代の砂糖税はおそらく500~800億円くらいだと思います。100年前の「砂糖消費税」の4.5%には遠く及びませんが、それでも健康増進効果を考えれば、砂糖税の「再導入」は合理的だと思います。日本もぜひ導入すべきです。