大学と政治【日英比較】

森友学園と加計学園という二つの学園物語のおかげで、いま文部科学省や大学、学校をめぐる問題が政治の話題になっています。加計学園の獣医学部の新設問題を見ていると、大学は政府や政治家に「お願い」するのが、当たり前というのが日本の風土であることがわかります。教育の世界も、中央集権的で、役所の権限がきわめて強いことが改めて明らかになりました。

おそらく「ふつうに申請しても文科省にダメ出しされる。だからお友だちの安倍総理に頼んでなんとかしてもらおう」というのが、加計学園問題の本質だと思います。「大学は弱くて、政治家や政府に陳情しなくては物事が進まない」という構図があるようです。

大学の自治や学問の自由は、もともと日本では弱いものでした。安倍一強のもとで進む“大学改革”(実際には“大学改悪”ですが)のせいで、さらに大学の自治や学問の自由が危うくなっています。日本の大学は特殊な気がします。

たまたま同窓会(ロンドン大学教育研究所)のニューズレターを読んでいたら、イギリスで現在行われている総選挙(下院議員選挙)に際して、大学関係者がそれぞれの専門分野別に政策提言を出していました。保守党とか、労働党とか、特定の政党に向けて政策を提言するのではなく、総選挙に勝った政党に対する「新政府への助言」として教育政策を提言しています。

原語では「Priorities for a new government: advice from our academics」とあり、直訳すると「わが校教授陣から新政府の優先政策についてのアドバイス」という感じです。そこには政府や政党に媚びる感じはまったくありません。教育の専門家としての立場から新政府が取り組むべき政策を示しています。

お上に「お願いします」というように媚びる感じではなく、「こうすべき」という上から目線的な提言といってもよいかもしれません。望ましい「政と学」の関係は、大学人が政治家に媚びるのではなく、大学人が政治家に対して自らの専門分野の知見で助言や提案をする、という関係だと思います。ところで、日本で総選挙の時に政策提言を出している大学はあるのでしょうか(寡聞にして知りません)。

大学の自治や学問の自由の伝統があるのが、イギリスの大学の強みのように思います。あるいは、ロンドン大学の学長(Chancellor)はアン王女なので、政府に対して上から目線なのかもしれません(?)。ひょっとすると大学の自治を守るために、王室をしたたかに利用しているのかもしれません。

学者や大学が、文部科学省や政治家にペコペコ頭を下げなくてはいけない状態は不健全です。権力に従順な学者というのは困りものです。健全な批判的精神がないところに、民主的な社会はなく、権利や自由も守れません。大学の自治とか学問の自由とか、真剣に考えなくてはいけないテーマだと思います。安倍政権は大学で防衛省の研究をやらせたりと、「大学と政治」の関係も安倍政権下では重要な政治課題です。

 

*ご参考:https://ioelondonblog.wordpress.com/2017/05/04/priorities-for-a-new-government-advice-from-our-academics/