大学入試の英語業者テストの弊害

安倍政権の「教育再生」はいろいろ問題があります。そのひとつが民間業者や教育産業への利益誘導ではないか思うような「改革」です。たとえば、2020年度から大学の英語民間試験の導入が決まっています。認定された民間業者による英語の試験を大学の合否判定に使うことになります。

当面は各大学の判断で、①独自入試、②民間認定試験、③独自入試と民間認定試験の併用、という3パターンの英語入試が行われます。これが混乱を招くことはまちがいありません。たとえば、東京大学は独自入試を決めていますが、賢明な判断だと敬意を表します。

これまで安倍政権下で民間業者試験の導入を決める審議会には、民間業者の関係者が「有識者」として選ばれ、自分たちに都合の良い議論をしていました。「有識者」というより、「当事者」が議論していれば、予定調和的な結論になって当然です。導入のプロセス自体に大きな問題がありました。

民間業者の英語テストには、いろんなテストがあります。たとえば、TOEFLというアメリカの大学入試用テストがあります。かつて自民党の文教族は「大学入試にTOEFLを導入すべき」といった論外の提言をしていたことがありますが、自分でTOEFLを受けたことのない人がテキトーに提言しているのがバレバレでした。TOEFLというテストは、学習指導要領のレベルでは対応不可能です。

学習指導要領で高校卒業までに学ぶ英単語数が3000ワードくらいです。しかし、TOEFLの問題を解くには最低でも5000ワードくらいの語彙力が必要とされます。高校で習ってない英単語を知らないと受験できないのがTOEFLです。高校生の英語力の達成度を測るテストとしてTOEFLが不適なのは、ちょっと考えれば常識でわかることです。「有識者」でなくても、その程度のことは常識でわかります。

また、企業の入社テストや海外赴任の基準に使われるTOEICというテストがありますが、これは生活に役立つ実用英語が中心です。大学というアカデミックな場で学ぶための英語力を測定するテストとしては不適切です。しかもTOEICの場合は、慣れると比較的かんたんに高得点がとれます。単にテスト慣れすれば、得点が急上昇するようなテストは大学入試向きではありません。テスト慣れのためには予備校や学習塾でひたすらテスト対策をすればよいのですが、それでは英語力を測るテストにはなりません。単に「テスト力」を測るテストになります。

民間業者テストを複数回受けられるようにするようですが、それも問題です。TOEFLでもTOEICでも、最近始まったTEAPと呼ばれるテストでも、何度も受験すれば慣れてきて得点が上がります。TOEIC模擬試験のようなものであれば、何度も受けられるので、お金と時間をかければかけるほど高得点を狙えます。

こういった民間業者テストは、決して安くありません。また、テストを受けるチャンスの少ない地方在住の高校生が不利になる恐れもあります。裕福な家庭の子どもは何度でもテストを受けられるので有利になりますが、そうでない家庭の子どもは不利益をこうむります。所得格差と地域間格差を生み、首都圏や大都市圏の比較的恵まれた家庭の子どもが有利になります。

大学入試センター試験の英語テストは、長年のノウハウの蓄積もあり、高校で学ぶ内容をテストするには良いテストであったとの評価が多いです。高校生が学校で学んだ内容をテストするのが当然だと思いますが、その点で大学入試センターの試験はすぐれています。

安倍政権の「教育再生」は、そこそこ機能している制度を、より悪い制度に代替しているケースが多いです。むしろ「教育改悪」といってもよいものばかりです。教育政策の面でも「安倍政治を終わらせる」ことが必要です。