安倍政権の高支持率の背景:格差が分断を生み、分断がナショナリズムを生む

姜尚中氏が、国際政治学者のモーゲンソーの「国際政治 権力と平和」の一部を要約して次のように書いています。

 ナショナリズムとは、個人と国家の自己同一化が進むことであり、その自己同一化の強度は社会の分裂に、つまり社会の安定性に反比例する。言うなれば、社会が安定していなくて、分裂していればしているほど個人と国家の同一性がもっと進んでいく。それは非常に危険な状態であって、国際政治をやがて宗教的な善悪の問題にまで局限化していくような世論が起きやすくなる。

私が日頃感じていることをズバリと言い表している表現です。日本社会は格差で分断されています。非正規雇用が増え、所得格差が拡大しています。富裕層が少し増え、低所得層が急増し、中間層が上下にはぎとられて薄くなっています。 

格差で分断された社会は不安定になり、居場所のない人たちの「個人と国家の自己同一化」が進みます。終身雇用の正社員や公務員であれば、職場や労組がコミュニティの役割を果たしていました。地縁のつながりや宗教共同体に所属する人たちには、国家以外の居場所があります。しかし、孤立して不安定な立場の人たちにとって、「国家との自己同一化」が最後のよりどころになるのは自然です。

日本以上の格差社会の中国や韓国で反日的ナショナリズムが盛んなのも、モーゲンソーの説明でよく理解できます。失業中や非正規、低賃金労働の若者が多い中国や韓国でも「個人と国家の自己同一化」が深化しているのは自然なことかもしれません。

日本の場合、居場所のない人たち、「個人と国家の自己同一化」しか選択肢のない人たちには、安倍首相の右派的・排他的ナショナリズムは受け入れられやすいのだと思います。次のような図式が成り立ちます。

(1)  アベノミクスがうまく行かず、格差が拡大する。

(2)  格差が拡大すると、社会の分断と個人の孤立化がいっそう進む。

(3)  孤立して居場所のない人たちが増え、「個人と国家の自己同一化」に走る。

(4)  「個人と国家の自己同一化」が進むと、排他的ナショナリズムが支持される。

(5)  排他的ナショナリズムの高まりが、安倍政権の高支持率に貢献する。

「個人と国家の自己同一化」が進んで排他的なナショナリズムや全体主義的な潮流が広まれば、対外的に強硬な態度をとり、軍拡や海外への自衛隊派遣を拡大するような、マッチョな外交安全保障政策が支持されます。安倍政権で進む軍事化は、そういった背景もあるのかもしれません。

ひょっとすると「経済政策がうまく行っていないのに安倍政権の支持率が高い」というのは誤りで、「経済政策がうまく行ってないから安倍政権の支持率が高い」というのが、逆説的に見えても真実なのかもしれません。

排他的なナショナリズムの高まりは世界的な現象です。日本ではその流れに安倍政権はうまく乗っています。しかし、ナショナリズムをあおるとコントロールできなくなる可能性があります。ナショナリズムのぶつかり合いは、良い結果にはつながりません。余計な挑発は行わず、ナショナリズムを抑制し、冷静に近隣国と対話する必要があります。

再分配機能の強化や社会保障の充実で格差の拡大をくい止め、社会の分断を修復していかなくてはいけません。「アベノミクス敗戦後」の政策をしっかり練り上げ、世論を喚起していくことが、今年の民進党の重要課題だと思います。