安倍長期政権について御厨貴氏のコメント

安倍政権の在任期間が史上最長になり、いろんな人がコメントしています。いちばん印象に残ったのが、日本政治史の御厨貴東大名誉教授のコメントです。東京新聞の御厨教授のインタビュー記事から一部抜粋します。

Q.長期化の理由は。

A.代わりがいないのが秘訣だ。(中略)首相が政治的な技術に卓越しているとは、あまり思えないが、自民党は派閥機能低下で強力な総裁候補がいないし、野党は分裂して八方ふさがりだ。

Q.政権の実績は。

A.経済政策で政権奪還したが、アベノミクスも成功したか分からない。何かを動かしている「やっている感」を出している。ただ、大きな失点はない。日米同盟が悪化していないのは成果だろう。

*東京新聞2019年11月19日朝刊

御厨貴氏の本は何冊も読んでいますが、どちらかといえば自民党寄りの印象を持っていました。週刊誌の対談でもいつも野党に厳しいコメントする方です。その御厨氏がここまで安倍政権に辛らつなコメントをするとは思いませんでした。

長期政権の理由が「代わりがいない」というのも身もフタもないですが、事実だと思います。自民党内の対抗勢力の不在、野党の力不足という2つの要因が最重要であり、われわれ野党の責任も重いです。

安倍総理を指して「政治的な技術に卓越しているとは、あまり思えない」というのもその通りです。対抗勢力が弱くて無能なリーダーが長期政権を維持してしまう例といえば、ナポレオン3世に似ているかもしれません。

ちょっと前にマルクスの「ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日」を読みました。ルイ・ボナパルトは「ナポレオン三世」と呼ばれ、ナポレオンの甥という以外は取り柄のない凡庸でだらしない人物でした。そのルイ・ボナパルトが、選挙で国民から大統領に選ばれました。単におじさんのナポレオンの人気にあやかっただけの当選だったと思います。おじさんの七光りは世襲政治家に通じるものがあります。

さらにルイ・ボナパルトは、議会の混乱に乗じてクーデターを起こして皇帝になり、長期にわたって権力を握ります。最後は普仏戦争でビスマルクのプロイセンに敗北して終わりますが、それでも18年ほど長期政権を維持しました。

ナポレオン3世は、対抗勢力が混乱して弱体化していると、どさくさに紛れて無能な政治家がトップに上りつめて独裁権力が生まれ、長期にわたって政権を維持する、という嫌な事例です。無能なトップに率いられた長期政権。長期展望なき長期政権。ナポレオン3世の場合は普仏戦争に敗れパリを占領され、最後にツケを払うことになりましたが、フランス国民にとっては最悪の終わり方だったと思います。

日本の長期政権がどういう終わり方をするのかわかりません。さくらと共に散るのかわかりませんが、早く終わった方が日本のためです。あやうい異次元金融緩和政策や株式市場の官製相場化は大きなリスクです。

御厨氏は「日米同盟が悪化してないのが外交的成果だ」と言いますが、トランプ大統領のアメリカとの蜜月関係が長期の国益に資するか疑問です。成果の出ない外交政策もそろそろ転換する時期です。安倍長期政権は、功罪でいえば、罪の方が大きいと思います。