いつか見た風景:自民党の派閥総裁選

先週金曜日(8月28日)の安倍総理の辞任にともない、ポスト安倍レースが急展開しています。報道を見る限りでは、アッいう間に菅総理という筋書きができつつあるようです。

二階幹事長のグループが菅氏を推し、麻生副総理も岸田政調会長をあきらめて菅氏を推すのではないかと報道されています。安倍総理も水面下で菅氏を後継指名し、細田派(実態は安倍派)も菅氏に乗っかれば、自民党内の過半数を制することになります。

先が見えてくると「勝ち馬効果」が出てきて、われ先に菅氏を支援する自民党議員が出てくるでしょう。無派閥議員や総裁候補を出さない派閥の議員は雪崩を打って菅氏支持に向かう可能性が高いでしょう。

ちょっと前までは、岸田氏と石破氏はポスト安倍候補とされていました。菅氏は総理のポストは考えていないと公言していました。しかし、ほんとうにアッという間に状況が変わりました。政局の動きは予想がむずかしいです。

総理大臣が代わるのも久しぶりですし、自民党内の本格的な総裁選も久しぶりという気がします。自民党内の権力闘争、派閥単位の合従連衡という「伝統芸」を久しぶりに見た感じがします。

比較政治学の教科書的にいえば、他国の政党でも政策グループや有力政治家を支持するグループはありますが、日本の自民党の派閥のようにカッチリした「党内党」は世界でも類を見ません。しかも、派閥ごとに政策が異なるかといえば、それほど違いがありません。

自民党の派閥は、事務局のオフィスを持ち、事務局職員(派閥職員?)がいて、毎週木曜日にみんなで昼飯を食べ、政治資金集めや政治資金パーティー開催から党内人事までいろんな機能を果たしています。派閥の事務総長が集まる会議まであります。

たとえば、自民党の国会対策委員会にはたくさん副委員長がいますが、基本的に各派閥を代表する副委員長がいて、派閥を代表して情報収集と情報伝達の役割を果たしています。派閥が党のフォーマルな組織に組み込まれている雰囲気があります。そういった派閥主導の総裁選挙になりそうな雰囲気になってきました。

自民党の総裁が任期途中で辞任した場合は、党員投票を省略して、国会議員と都道府県連代表だけの投票で新総裁を選出するパターンが多いです。安倍総理が辞任会見で「政治的空白を生み出さない」と強調していましたが、それは「時間がかかる党員投票をやめて、両院議員総会で新総裁を選出すべし」という意味に解釈できるでしょう。

すでに報道されているように、世論調査で人気上位の石破氏が党員投票だと有利になるので、それを避けて両院議員総会での総裁選に誘導したと考えるのが自然です。突然の辞任といっても安倍総理は次の総裁選出までは総理の職を続けると言っているのだから、本当は党員投票をする余裕はあったはずです。それでも党員投票をやらないのは、やはり国会議員だけで新総裁を決めたいということでしょう。

総裁選において派閥の数が意味を持ち、各派閥の長が集まって次の総裁を決めるというのは、久しぶりに見た「自民党の伝統芸」そのものという気がします。古式ゆかしい総裁選ぶりで、2006~2008年にかけて毎年のように自民党総裁選が行われていた頃を思い出します。やっぱり自民党は変わってなかった。さすが「保守」政党です。