北東アジアは情報機関外交の全盛期?

このところ北朝鮮をめぐる情勢は、各国の外務省ラインではなく、各国の情報機関のラインで進展しています。外務省と大使館という正規の「外交チャンネル」よりも、情報機関(対外情報機関)の「バックチャンネル」で物事が進むという、独特の情勢があります。対外情報機関のない日本が、北東アジア外交で取り残されている一因かもしれません。

先日、電撃的に決まった米朝首脳会談は、北朝鮮の情報機関である朝鮮労働党統一戦線部、韓国の国家情報院、米国の中央情報局(CIA)のラインで決まったと報道されています。これまでの北朝鮮と米国との接触は、北朝鮮の国連代表部(ニューヨーク)と米国の国務省を通じた「ニューヨークチャンネル」と呼ばれるルートで行われてきました。しかし、今回は情報機関の「バックチャンネル」で米朝会談の下準備がなされました。

南北会談でも韓国の代表は国家情報院という情報機関トップでした。北朝鮮、韓国、米国とそれぞれの国で情報機関が力を持ち、首脳に直結してバックチャンネル外交を進めています。ニューヨークタイムズ紙の2018年3月16日の記事のタイトルは「Spies, Not Diplomats, Take Lead Role in Planning Trump’s North Korea Meeting」とあり、外交官ではなく情報機関のスパイが、北朝鮮との首脳会談を計画したと伝えています。

河野太郎外務大臣と韓国の国家情報院トップが会談している報道を見て違和感を覚えました。本来であれば、河野外相のカウンターパートは韓国の外務大臣にあたる外交部の康京和長官です。国家情報院のトップと河野外務大臣の会談というのはチグハグです。しかし、それしか手はないのでしょう。

日本の情報機関トップといえば、内閣情報調査室のトップの内閣情報官ですが、警察庁からの出向です。公安畑のエリートが出向する重要ポストとはいえ、他国の外務大臣と会談を行えるほどステータスは高くありません。日本では情報機関が花形ではないですが、米国や韓国、北朝鮮や英国、ロシア、イスラエルなどでは、情報機関というのはエリートが務める組織です。英国の情報機関もオックスフォードやケンブリッジを出た知的な紳士が就職する場とされてきました。

しかも、日本の情報機関トップは、警察畑であることから明らかなように、「対外情報機関」ではなく、「国内治安情報機関」という色合いが濃厚です。警察庁のカウンターパートは、米国ならFBI(連邦捜査局)、英国なら内務省系保安局(Security Service:通称MI5)といった国内治安情報機関です。そういう意味では内閣情報調査室のトップが、バックチャンネルの情報機関同士の外交に手を染めるのは難しいでしょう。

北東アジアでは情報機関外交が全盛という特殊事情も、安倍外交の失敗の背景にあるのかもしれません。いずれにしても安倍外交の破綻が明らかになりつつあります。