ドイツのテレワーク事情:日本は?

ドイツではコロナ禍をきっかけにテレワークが進み、ドイツ在住ジャーナリストの熊谷徹氏によると「テレワーク革命」が起きているそうです。もともとドイツは労働者の権利が守られ、労働時間が短いです。しかし、時間当たりの労働生産性は日本より高く、有給休暇の取得率もほぼ100%です。

ドイツは個人主義が発達していて、日本的な同調圧力は弱く、かつ、法律と労働組合が労働者の権利をしっかり守ってくれます。周囲に遠慮せずに有給休暇を取ったり、早く帰宅したりしやすい環境が以前からありました。そういった先行条件もあって、日本以上にテレワークの普及が進んでいるようです。

もともとコロナ以前から日本よりドイツの方がテレワークは進んでいました。コロナ以前のテレワークの最大の利点は、働きながら介護や育児ができることです。通勤時間が短縮できる点や、転勤しなくて良い点も長所です。

コロナ禍で強制的にテレワークを実施せざるを得なくなり、やってみたところドイツでは「意外といいね」という反応が多いそうです。通勤時間が短くなったり、家族と過ごす時間が増えたり、自宅で集中して仕事ができたりと、テレワークの良さを実感している人が多いそうです。さらに「テレワークの方が生産性が上がった」という声も多いそうです。

ドイツでは人づきあいが苦手でオフィスで働くのにストレスを感じていた人にとってテレワークの方がストレスがなくて良いという事例もあるそうです。ひょっとすると日本で引きこもり状態の人がテレワークだと働けるケースもあるかもしれません。引きこもりが社会問題になっている日本では、テレワークで引きこもりの人に社会参加してもらう可能性を探る必要があるかもしれません。

私にとっては意外でしたが、テレワークだと労働時間が伸びる傾向もあるそうです。定時退社が当然とされるドイツの職場では、退社時間が来れば仕事を切り上げやすいのですが、一人で仕事をしているとついつい仕事を切り上げるタイミングを逃してしまうそうです。また気軽にZOOM等で会議が開けるので、かえって会議の回数と会議に費やす時間が増える傾向が見られるそうです。

ドイツでもコロナ禍で海外出張は激減しました。商談のあり方も変わったそうです。これまでは顧客のところまで出向いて商談というパターンが多かったのですが、コロナで出張できなくなると、やむを得ずオンラインで打ち合わせることになります。それでも支障がないケースが多いことがわかり、コロナ後も海外出張は激減すると予測されています。

コロナ後の日本でもZOOM会議が増えて出張が減るかもしれません。かつては「支店経済の街」と呼ばれていた福岡市は、東京はじめ全国各地からの出張者が多く、そのおかげでホテルや飲食店が潤ってきました。テレワークやZOOM会議の増加で出張が減ると経済には打撃かもしれません。

テレワークが増えると、地価の高い都心に大規模なオフィスを構える必要はなくなるかもしれません。今までよりもコンパクトなオフィスで事足りるようになれば、都心のオフィス需要は激減して、不動産市場にも影響するかもしれません。

ドイツでテレワークが好まれた理由のひとつは通勤時間の削減(というより「消滅」)です。日本の首都圏の通勤事情はドイツ以上に悪いので、日本ではさらに有益かもしれません。私も新宿でサラリーマンをしていた頃は、横浜市磯子区(のちに所沢市)の職員住宅に住み、片道1時間半の通勤に苦しんでおりました。往復で3時間を通勤にあてているサラリーマンにとっては、テレワークはかなりのインパクトです。家族と過ごす時間や趣味の時間を大幅に増やせます。

テレワークが普及すると住宅事情に大きなインパクトがあるかもしれません。電車の混雑は少しは減るでしょう。たまにしか都心に出ないのであれば、会社から遠く離れた土地に住んでも支障がありません。自動車で通勤している人が、テレワークに切り替えれば、CO2の排出が減って環境にもやさしいでしょう。

ちなみにドイツでは完全なテレワークというよりは、オフィスワークとテレワークのハイブリッドな働き方が普及する可能性が高いそうです。週に2~3日はテレワークといった働き方が広がるかもしれないそうです。日本でもそうなるかもしれません。

テレワークの普及とあわせて時短勤務が柔軟にできるようになれば、介護や育児と仕事の両立が容易になるでしょう。ドイツではそれがテレワークのメリットの1つと見なされてきました。日本でもそうなるとよいと思います。

昼間に働いても夜働いても合計で1日8時間労働といったかたちで、厳格に労働時間を管理できれば、テレワークの労務管理は可能です。パソコンを使って仕事をしている人ならそのような労務管理は容易です。フレキシブルに働ければ、介護でも趣味でも勉強でも、いろんなことをやる余裕ができます。通勤時間がいらない分だけ、「可処分時間」が増えます。

テレワークにはいろんな利点があり、人間らしく暮らすためにも、介護や育児と仕事を両立するためにも推進すべきだと思います。日本でもテレワークを普及させるために、テレワークの労働者の権利を守るルールをつくったり、テレワーク投資には減税措置を導入したり、政府としてもやれることがあります。

あわせてテレワークが不可能な「非テレワーク労働者」には、電車の定期代の他に「通勤せざるを得ない手当」的なものを創設し、テレワーク不可能なエッセンシャルワーカーへの配慮も必要だと思います。いろんな工夫でワークライフバランスを改善する機会にできると思います。

*参考文献:熊谷徹 2021年「ドイツ人はなぜ毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか」SB新書