米ロ首脳会談に見るバイデン政権の対中国の本気度

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バイデン大統領とプーチン大統領が6月16日にスイスで初めての首脳会談を行いました。建設的な雰囲気で会談は進み、サイバーセキュリティーや核軍縮条約の「新START」などについて議論したとの報道です。米ロ双方に歩み寄りの姿勢が見られます。

バイデン大統領の思惑は、ロシアと中国の離間だと思います。先日のG7サミットでも中国を非常に意識していることが明らかでした。G7の「主役は中国」ともいわれました。中国と対峙していくために、ロシアと中国の協力関係にくさびを打ち込む意図が米国にあるのでしょう。

バイデン政権は中国との競争を最重視し、ロシアとの関係改善をめざしているのだと思います。それだけバイデン大統領の対中姿勢が本気ということです。ロシアの脅威をいったん棚上げにしてでも、中国との対立にリソースを集中したい米国の意図が見て取れます。米国の安全保障専門家のアンドレア・ケンドール=テイラー氏、デヴィッド・シュルマン氏は次のように述べます。

中国との協調基盤を揺るがすには、モスクワに対して「アメリカとのある程度の協力関係に入る方が北京に従属するよりも好ましいこと」を理解させなければならない。モスクワの認識を変えようと試みても、中ロ協調を完全に阻むことはできないが、その連携のもっとも悪質な部分を制約することはできるだろう。

ワシントンの政策立案者やアナリストのなかには、「中国からロシアを引き離して自分たちの側に取り込む逆ニクソン戦略」を提言する者もいる。だがわれわれ二人は(そのようなクリアーカットの政策ではなく)むしろ「プーチンの側近たちに(中国との踏み込んだ協調路線ではなく)よりバランスのある独立したロシア外交の恩恵を認識させるために、ワシントンがより穏やかで段階的なアプローチをとること」を提言する。

ロシアと中国の関係は、いまは良好に見えます。しかし、本心から友好的なパートナーというよりも、「敵の敵は味方」というロジックで協力している面が大きいと思います。かつてロシアと中国は旧ソ連時代に国境紛争で核戦争一歩手前まで行ったこともあります。中国人の多くは清朝の時代にロシアに領土を奪われたという歴史認識を持っており、現在の中ロ国境は国際法的には画定済みかもしれませんが、心理的には暫定的かもしれません。ロシアが中国に完全に心を許しているとは思えません。

さらに中国と領土紛争を抱えるインドやベトナムの戦闘機や潜水艦はロシア製が多く、中国の潜在敵国(仮想敵国)にロシアは大量の最新兵器を供給しています。そのことを中国がこころよく思っているはずがありません。ロシアもそのことはよく認識していて、それでも大量の兵器を供給しているのだと思います。

プーチン大統領は決してお人好しではなく、怜悧に計算した上で米国との関係改善がロシアの利益だと計算していると思います。米国の言いなりになるプーチン大統領ではありません。ロシアをめぐって米国と中国に綱引きさせるのは、ロシアにとってメリットだと認識しているのでしょう。

アンドレア・ケンドール=テイラー氏、デヴィッド・シュルマン氏はこう指摘します。

モスクワのアナリストやエリートの一部は、ロシアが次第に中国に従属しつつあることを懸念している。中国がベラルーシ、イランなどでのロシアの利益に食い込んでくるなか、ワシントンは将来のモスクワの指導者がより中立的なコースをとることを期待し、ロシア市民と支配エリートたちが現在のアプローチが賢明であるかを疑問視するように仕向けることもできる。

経済面では中国はロシアより強国です。いまやロシアのGDPは韓国以下です。中国はロシアの10倍の経済規模です。ロシアのエリートが、中国への従属を心配するのは当然です。中国政府の外交・通商政策は総合調整がなされていないことが多く、外交的配慮を無視して国営企業が強引な投資をしているケースも見られます。ロシアのエリートの神経を逆なでするような中国の経済進出が起きていても不思議ではありません。

アンドレア・ケンドール=テイラー氏、デヴィッド・シュルマン氏は論文を次の文章で締めくくります。

北京とモスクワの協力をいかに制限していくかをクリエーティブに考えることが、今後数十年におけるアメリカの利益とリベラルな民主主義を守るためにはきわめて重要になる。

このような視点で、米国とロシアの関係、ロシアと中国の関係は読み解くことが大切だと思います。日本政府(特に官邸)がどんな認識を持っているのでしょうか。先日のG7の最大の成果が、オリンピックへの社交辞令的な支持表明というのでは、ちょっとさびしいです。菅総理の世界観が知りたいものです。

*参考文献:アンドレア・ケンドール=テイラー、デヴィッド・シュルマン「中ロ離間戦略を:対ロエンゲージメントのポテンシャル」フォーリン・アフェアーズ・リポート日本版(2021年NO.6)

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