野党の質問時間削減の不当性

自民党は国会での野党の質問時間を削減し、与党の質問時間の増加をめざしているそうです。安倍総理の直接の指示だそうです。そして菅官房長官も記者会見において「議席数に応じて質問時間を配分するのは、国民ももっともだと考えると思う」と発言しています。

従来の国会の慣習では、与党と野党で質問時間を28の割合で配分することになっています。民主党政権時代に確立した慣習ですが、当時野党だった自民党も賛同して始まった慣習です。

安倍総理は、総選挙で自公が圧倒的な議席数を占めた直後に、その良き慣習を変えようとしています。さっそく安倍政権のおごりが表面に出てきました。安倍総理は選挙前に「謙虚に耳を傾ける」と言っていたと思いますが、もう忘れたのでしょうか。

そもそも官房長官という行政府の人間が、立法府の質問時間の配分にまで口出しするのは越権行為です。菅長官は発言を即座に撤回すべきです。自民党国対も立法府の一員として、「国会運営のことに閣僚が口出しするな」と行政府に対して抗議してしかるべきです。

少数意見や多様な意見を尊重し、謙虚に耳を傾けるのが民主主義であり、そうでなければ、「多数者の専制」に堕してしまいます。野党に多めに質問時間を割り当てるのは国会のよき慣習であり、それをくつがえす理由は見当たりません。

安倍政権はおごった態度をとっていますが、与党の議席が多いのは、議席数と得票率の乖離、小選挙区制という死票の多いシステムの結果であることを忘れるべきではありません。得票率に比べて過剰な議席数を占有している点を政府与党は自覚すべきです。

たとえば、今回の衆院選の比例区得票は、①自民党:1854万票(33%)、②立憲民主党:1107万票(20%)、③希望の党:966万票(17%)であり、二大野党を足せば自民党の比例区得票を上回ります。自民党の議席は圧倒的ですが、自民党への支持が圧倒的ということではありません。議席の上では少数野党かもしれませんが、民意の上では決して少数とは言えません。単純に議席数だけを基準にドント方式で質問時間を配分するのは誤りです。

また、国会審議において、政府与党の考え方は、総理大臣の所信表明をはじめ、閣僚や副大臣等の政府入りしている与党議員の答弁のなかでも詳しく述べる機会があります。議院内閣制においては、与党議員が内閣を構成するため、「政府」と「与党」はほぼ一体というのが現実です(建前はともかく)。

単純に質問時間だけで考えるのではなく、「大臣を含めた与党議員の国会における発言時間」という観点も大切です。野党議員の質問に対して、安倍総理がきかれてもいないことをベラベラしゃべる時間まで、野党議員の質疑時間にカウントされます。そういった時間を含めて「与党議員(閣僚含む)が国会内で発言している時間」と考えれば、かなりの長さになります。与党議員の質問時間が短くても差し支えない理由のひとつです。

さらに、与党のいわゆる「事前審査制度」の中で自民党議員には、法案が国会に提出される前に意見表明の機会が多々あります。そもそも同じ党に所属する総理大臣や各省大臣と自民党議員の意見が大幅に異なるはずはなく、与党議員に多めに質問時間を割り振っても行政へのチェック機能が十分に働くとは思えません。安倍1強下でものが言えない自民党内の雰囲気では、自民党議員の質問時間を増やしたところで「ちょうちん記事」ならぬ「ちょうちん質問」が増えるだけかもしれません。それでは国会による行政監視機能は果たせません。やはり野党議員の行政監視機能に期待する必要があります。

どうしても与党の質問時間を伸ばしたければ、全体の質問時間を増やしてパイを大きくすればよいと思います。全体の審議時間を増やすことにより、与党議員の質問時間も十分に確保できます。それが最善の方法です。

以上のような理由から、自民党が野党の質問時間を削減しようとしているのは、不当であることがご理解いただけると思います。おごった安倍政治の弊害がさっそく顕著になってきました。健全な議会制民主主義を守るため、国会対策畑の専門家としてがんばります。