社会保障のための負担増支持は7割

厚生労働省が実施した「令和4年 社会保障に関する意識調査」を最近読んで興味深かったので、ご紹介させていただきます。

令和4年社会保障に関する意識調査結果について|厚生労働省

この意識調査は、20歳以上の人を対象に2022年7月に実施され、有効回答者数が7,128人の調査です。それなりのサンプル数なので信頼性は高いと思います。

この調査では、「民間の医療・介護保険の加入状況」、「老後の所得保障」、「子ども・子育て支援対策」についても調べていますが、私が一番興味深く思ったのは「今後の社会保障の給付と負担に関する考え方」の調査です。

それによると;

「社会保障の給付水準を引き上げ、そのための負担増もやむを得ない」     16.9%

「社会保障の給付水準を維持し、少子高齢化による負担増はやむを得ない」   32.7%

「社会保障の給付水準をある程度引き下げつつ、ある程度の負担増もやむを得ない」 12.5%

という結果でした。

正直言って予想外でした。上述の3つ「負担増もやむを得ない」の回答者の合計は62.1%に上ります。 ちなみに「その他」が4.5%で、「不詳」が5.1%なので、合計9.6%が回答不明でした。きちんと答えた人は約90%と言っても差し支えないでしょう。

きちんと答えた約90%中で62%の人たち(=約69%)が「負担増もやむを得ない」と考えていることになります。言い換えると約7割の人たちは「社会保障費のためには負担増もやむを得ない」と考えるとみなしてよいでしょう。

先の参院選で与野党ともに消費税減税や現金給付を訴えたのは、間違った選挙戦略だったのかもしれません。多くの政党や政治家が、「物価高で国民が苦しんでいるから消費税減税が支持率アップにつながるだろう」とか、「消費税減税よりも給付の方が手っ取り早く支持されるだろう」とか、そういう考えに立って耳に心地よい負担軽減ばかりを訴えたのでしょう。

しかし、多くの国民は、社会保障のためなら負担増もいとわないことがこの調査で明らかです。「医療や介護、教育の安心のために、申し訳ありませんが、負担を増やします」と誠実に訴えた方がよかったかもしれません。

もちろん払った税金が不正や非効率に使われないことが大前提ですが、多くの国民は負担が増えても医療や介護などの社会保障が維持できればその方がよいと考えていると思います。

これだけ国の借金が増えて財政規律がゆるんでいる中で、さらに減税したり無節操な給付を増やしたりすることが多くの国民の利益になるとは思えません。

例えば、低所得者やひとり親世帯などのターゲットを絞った給付は必要だし増やすべきだと思います。しかし、全国民に一律に給付するような政策は、効果が薄いわりに財政負担が重く愚かだと思います。景気対策の観点からも、なるべく生活が苦しい人を中心に給付すべきです。生活が苦しい人は給付金をすぐに使うので経済効果が迅速に現われますが、経済的に余裕のある人に給付しても貯金が増えるだけで消費はあまり増えません(経済学用語で言う「消費性向」のちがいです)。過去のコロナ給付金なども、富裕層はあまり消費に回さず、貯蓄が増えただけでした。

野党の消費税減税にも反対ですが、与党の全国民一律に給付金を配るのにも反対です。与党の給付案は、一応は弱者に配慮した給付ですが、それでも弱者ではない人までばら撒く点で問題があります。

この調査で約7割の人が示した「社会保障のためには負担増もやむを得ない」という思いを尊重するなら次のような政策こそ望ましいと思います。

  • 消費税減税も全国民への給付金のばら撒きもしない。
  • 長期的には消費税増税が必要だが、物価高と実質賃金の低下傾向を考え、今は増税しない。現状維持にとどめる。
  • 低所得者(住民税非課税世帯など)には「給付付き税額控除」を導入し、暮らしを支えるための給付金(=マイナスの所得税)を配分する。
  • 消費税の軽減税率を廃止し、「給付付き税額控除」の財源をねん出する。おそらく住民税非課税世帯を対象に消費税相当分程度の金額を給付できる。
  • インフレによる税収増はムダ遣いせず、低所得者対策や社会保障の充実に一部を回し、残りは借金の返済に充てる。財政規律の回復をめざす。

この調査結果を見ていると、国民は政治家が考えるよりも賢いのではないかと思います。「衆愚政治」というのは、国民が愚かというよりも、政治指導者が「国民は愚かだ」と決めつけて生まれるのかもしれません。

政治家は真摯に国の厳しい財政状況を説明し、政治家や官僚の不正や非効率に厳しく対処しつつも、社会保障費の確保や借金の返済のための負担増を国民に訴えるべきだと思います。

長期金利がじわじわ上昇するなかで、国債の利払い費の負担がこれから増えていくと思います。国の税収のかなりの部分が国の借金の利払いに充てられるようになれば、医療や介護、教育などの予算を削らざるを得なくなります。そうならないように早期に財政規律を回復し、持続可能な財政と持続可能な社会保障制度を再構築していく必要があります。

政治家は不人気でも負担増を誠実に訴えるべきです。国民も財務省陰謀論や「ザイム真理教」などといった根拠のないプロパガンダや陰謀論にだまされず、「天から金が降ってくるわけではない」という当たり前の現実を直視し、負担増に耐えても社会保障制度を維持していく必要があります。