安倍首相の求心力低下

先日、田中秀征先生(元衆議院議員、元経済企画庁長官)の講演を聴きに行きました。そのとき田中先生が仰っていた点と私が日頃思っている点を合わせて、安倍政権の求心力低下について思うところを箇条書きしてみました。

1.安倍首相の首相任期(=自民党総裁任期)の終わりが決まっているので、必然的に求心力は低下し、レームダック化は徐々に、しかし、確実に進むでしょう。田中先生が次のような例を紹介されていました。

ある自民党重鎮議員が息子を後継者に指名した。すると宴会で自分のところにお酌に来る人間が誰もいなくなった。みんな息子のところに行列してお酌をしている。

もうすぐ引退する政治家には誰もご機嫌を取ろうとせず、まだ立候補もしていない息子のご機嫌をとろうとするのが、政治の世界の非情さです。

多くの自民党議員や業界団体は「安倍晋三」という個人に対して頭を下げているのではなく、「内閣総理大臣」かつ「自民党総裁」の看板に頭を下げているだけです。「終わりの見えた内閣総理大臣」の求心力は低下し、「次の内閣総理大臣」の求心力が高まるのは必然です。

2.自民党総裁選では、官邸による厳しい締め付けにも関わらず、また、勝敗は明らかであったにも関わらず、石破氏が大健闘しました。中途半端な決意の「フワッとした」議員でも勝ち馬には乗りますが、負けを承知であえて石破陣営についた議員には覚悟があります。地方の党員の支持が低いことも可視化されました。求心力の低下が誰の目にも明らかになりました。自民党内でさえそれほど支持されない首相が、これからも国民から広く支持されることはないでしょう。いまの安倍内閣支持率のかなりの部分は、「他に適任者がいない」とか、「野党が頼りない」といった、いわば「消去法的支持」だと思います。積極的支持の少ない安倍内閣の支持率は、ある閾値を超えると一気に落ちる可能性があります。

3.今回の内閣改造はまったく期待感を持てない、派閥均衡の人事でした。一部では「在庫一掃内閣」といわれていますが、事実に反します。在庫は一掃されていません。いわゆる「大臣適齢期」の入閣待望組の自民党議員は80人ほどいましたが、今回の内閣改造でそのうち10人ほどが在庫から外れただけです。残りの「不良在庫」の70人ほどの議員たちは、不満を一層高まらせ、腐っています。人事を動かすと、一部の人はよろこびますが、それを上回る人たちが不満を持ちます。これも求心力低下の要因になります。

4.沖縄県知事選という大事な選挙で負けました。総力戦で臨んで負けたのは痛い敗北です。辺野古基地の建設を強引に進めれば世論は反発するし、何もしなければ無能さを印象付けます。難しい局面になります。求心力低下の一因になるでしょう。

5.憲法改正も痛しかゆしです。強引に進めれば、多くの国民が反発します。進めなければ、安倍総理のコアな支持層を形成する右派が失望します。どっちにしても遠心力になります。それでも強引に憲法改正を進める可能性はあります。経済もうまく行ってない、外交もうまく行ってないとすれば、目先を変える目的で憲法改正の発議を強引に行う可能性も否定できません。それもレームダック化が進む前、かつ、参院選の前に行う必要があります。来年夏の参院選で負ければ、憲法改正の発議ができなくなりますが、今の情勢では3分の2の議席を確保するのは難しいでしょう。来年夏までの間の強引な憲法改正の発議の可能性もなくはないと思います。

6.入管法改正(通称「移民法」)も求心力低下につながります。安倍総理のコアな支持層は移民政策に反対です。排外的ナショナリズムをあおって求心力を高めてきた安倍総理が、移民法を推進するのは矛盾します。新自由主義的な経済政策という文脈では安倍総理の政策と整合性がありますが、イデオロギー右派の反発は避けられません。

7.まだ安倍総理自身は発信していませんが、観測気球的な情報発信を見ていると、ひょっとすると二島返還でロシアとの平和条約締結を目論んでいるのかもしれません。その場合も右派の反発は必至です。ロシアとの北方領土交渉も求心力を低下させる可能性があります。

8.安倍政権発足から6年たちますが、デフレ脱却には失敗し、円安で輸出企業はもうかっても労働分配率は低くて実質賃金が上がらず、外交でも成果があまりありません。6年も総理大臣をやっている割に成果が少なく、単に「やってる感」の演出がうまいだけということに国民の多くが気づき始めました。「一億総活躍社会」とか、「三本の矢」とか、「新三本の矢」とか、電通・博報堂的なキャッチコピーを毎年毎年繰り出して目先を変え、ごまかしてきましたが、そろそろそれも限界です。「成果がない」という点も当然ながら求心力低下につながります。

ポスト安倍政権に向けて準備を進めたいと思います。

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