安倍総理の好き勝手に解散していいのか?

衆参同日選の予測が大勢を占め、すでに衆議院選挙モードです。前回の衆議院選挙から1年半ほどでまた衆議院選挙というのは異常な事態です。異常な事態であるにも関わらず、安倍首相の好き勝手に衆議院を解散するのが当然視されています。これは本当に当たり前のことなのでしょうか?

世界を見わたせば、首相が好き勝手に議会を解散できる国は減少傾向です。

イギリスでは2011年に「固定任期議会法(Fixed-term Parliaments Act 2011)」が成立し、首相の解散権を封じる決定をしました。下院の3分の2の議決がある場合を例外として、首相が好き勝手に下院を解散できなくなりました。実際のところ下院の3分の2の議決というのは、野党も解散に同意しないといけないということです。したがって、与野党が合意した場合を除けば、首相は解散できません。ドイツでは「建設的不信任制度」という独特の制度があり、やはり首相の好き勝手に解散しにくい仕組みです。

イギリスでは、首相の手から選挙時期の決定権を奪うことは、選挙の実施体制を公平なものとすると言われていました。また、5年間の下院議員任期が固定化されることで、頻繁な政策変更で市場や行政が混乱する可能性を減らします。首相にとっても、5年間落ち着いて政権運営できる利点があります。イギリス上院(貴族院)議員は選挙で選ばれないので、5年間もの長期間、国政選挙がないことを意味します。

5年間確実に政権を担えるという条件であれば、不人気であっても必要な改革がやりやすくなります。最初の2~3年で不人気でも必要な改革を進め、改革の成果が出てくる5年後に総選挙ということなら、かなり思い切った改革に踏み切れます。公共事業削減とか、環境税導入とか、資産課税強化とか、環境規制の強化とか、不人気な政策もやりやすくなります。選挙目当ての人気取りの必要性が減るので、派手で空虚な言動は減り、落ち着いた政策や穏健な外交がやりやすくなるでしょう。もちろん1年ごとに首相が代わることもなくなります。

2012年、2014年、2016年と2年ごとに衆議院選挙をやり、3年ごとに参議院選挙もやるとなると、国政選挙が多すぎる気がします。アメリカの下院は2年ごとの改選ですが、アメリカ議会はお手本にできる代物ではありません(アメリカ議会の機能不全は世界的に有名です)。 これだけ頻繁な国政選挙に統一地方選や東京都議選を加えると、しょっちゅう選挙をやっている感じです。そうなると毎度毎度の選挙対策に忙しく、政策立案や行政監視といった議会活動がおろそかになります。「選挙のための政治」という色合いが濃厚になります。日本は国際比較でみると、国政選挙が異常に多い部類に入ります。政治家が落ち着いて政治に集中できる環境を整備するのも、政治への信頼を取り戻す第一歩ではないかと思います。

安倍総理が当然のように行使しようとしている「解散権」の意味や弊害について、冷静に議論する時期だと思います。

*参考文献:「ウェストミンスター・モデルの変容」 小堀眞裕著、法律文化社、2012年