コロナ後は分散型システムと「生命経済」へ

京都大学の「こころの未来研究センター」の広井良典教授が、「ポスト・コロナ時代の働き方と経済社会-『分散型』システムへの移行と生命経済」という文章を書かれていておもしろかったので、ご紹介させていただきます。

コロナ後の社会に関して「ニューノーマル(新常態)」という表現がよく使われますが、それについて広井先生は次のように言います。

それでは、これまでが果たして「ノーマル」だったのかと言うと、たとえば首都圏の朝の通勤ラッシュを思い浮かべると、それはどう見ても「アブノーマル」と言わざるをえない姿だろう。

このように考えると、今回のコロナ禍は、むしろこれまでの日本が抱えていた問題に “ 気づき ” 、それを本来の人間的な働き方や生活に転換していく、良き意味での“外圧”ないし契機ととらえられるのではないだろうか。

確かに東京の通勤ラッシュは「アブノーマル」です。コロナ後に元に戻すべきことではありません。より良い方向へ転換するきっかけにできれば素晴らしいと思います。

広井教授の研究グループは3年前に日本社会の未来に関するAIを用いたシミュレーションを行い、持続可能性の観点から、「都市集中型」社会から「地方分散型」社会にシフトすべきという結論に至ったそうです。地方分散型システムの方が、人口・社会の持続可能性や格差・健康・幸福といった点において優れているという結果だったそうです。その「分散型」システムこそ、ポスト・コロナ時代にでめざすべき社会像だと広井教授は言います。

広井教授は、連邦国家でもあるドイツは、ベルリンやハンブルクのような大都市も存在するものの、全体としては中小規模の都市や町村が広く散在しており、「多極」的な空間構造になっており、日本が目指すべき「地方分散型」システムのモデルになると指摘します。

いまの日本では、東京一極集中も問題ですが、札幌・仙台・広島・福岡等の人口増加率が首都圏並みに高く、一部の都市に人口が集中していることが問題だと広井教授は言います。つまり「東京一極集中」ではなく、「少極集中」とでも言える状況だそうです。

私も福岡市民ですが、日頃から「福岡市は人口増加率が高い」と誇る人たちに対して疑問を感じてきました。すでに過密気味の福岡市が、さらに混み合うことが望ましいことなのか、まず疑問です。

第二の疑問は、福岡市の人口増は、自然増(出生数の増加による人口増)ではなく、社会増(他所から引っ越してくる人が多いことで人口が増える)です。佐賀県や宮崎県、鹿児島県、あるいは福岡県内の過疎地域から若者が福岡市に流入することで、福岡市の人口が増えているとすれば、日本全体の人口増とは無関係であり、日本国全体として見ればメリットはありません。

出生率は都市部で低く、地方で高いことはよく知られた事実です。若い世代が地方にとどまっている方が、人口増加という観点では望ましく、全国一出生率が低い東京に若者が集まっている現状は、少子化対策の観点から見ると最悪です。

広井教授は、日本で進行している「少極集中」は感染症の伝播という点ではリスクが大きく、実際に大都市で新型コロナウイルス感染拡大が起きたことを考えれば、「少極集中」を改め、ドイツのような「多極集中」とでも呼べる国土構造へ転換すべきと訴えます。

広井教授の言う「多極集中」とは、中小規模の都市や町村を含めて多くの「極」となる都市・地域が国土のなかに広く分布しており、かつそうした極となる場所には、ある程度集約的で中心部が「歩いて楽しめるコミュニティ空間」としてにぎわっているような姿を指します。徒歩や自転車、公共交通機関だけで暮らせる街づくりは、環境負荷も低く、美観にも健康にもよいことでしょう。

広井教授は、「集中から分散へ」という移行のなかで、「生命関連産業」と呼ぶべき分野を軸とする経済構造の再編を提言します。「生命関連産業」とは、(1)健康・医療、(2)環境・再生可能エネルギー、(3)生活・福祉、(4)農業、(5)文化、です。

個人的に意外だと思ったのは「文化」です。しかし、広井教授も指摘している通り、ドイツのメルケル首相も「文化は生命の維持に不可欠」と主張しており、文化の大切さを再認識すべきなのかもしれません。

広井教授は次のように言います。

生命関連産業として挙げた領域は、単純な “ 利潤極大化 ” とは異なる側面、つまり相互扶助とか循環、持続可能性といったコンセプトと親和性が高い領域であり、通常の意味での「産業」という概念に収まりきらない性格をもっているだろう。

生命関連産業は、労働集約的で「人」が重要な意味を持つ分野であり、雇用創出効果が大きく、ロボット化やAI化でも無くならない仕事が中心です。地方分散型システムへの移行と生命関連産業の振興が、ポスト・コロナ時代の優先課題だと思います。

*ご参考:広井良典「ポスト・コロナ時代の働き方と経済社会-『分散型』システムへの移行と生命経済」連合総研レポート2020年12月号(No.361)