人口減少時代の都市(諸富 徹 著)【書評】

ふと手に取って大当たりだった本「人口減少時代の都市」をご紹介させていただきます。地味な見た目の本ですが、とてもおもしろかったです。お薦めポイントは、①自治体の公営自然エネルギー事業、②空き家や空き地を買い上げ、再開渇したり緑地や公園として整備したりする「ランドバンク」制度、③公共交通機関の整備と自主的集住化を進めるコンパクトシティ、といった点です。

人口減は税収減につながり、公共投資の原資の減少につながります。人口減少にともなって、既存のインフラを維持更新することすら難しくなります。既存の公共施設の数を絞り込むことも必要になります。成長期の都市整備とは異なる発想で、成熟型の都市経営をめざすことが大切です。

戦前の日本では、都市が電気や鉄道などの公益事業を自ら経営し、その収益で市の財政を支えていた例も見られます。特に成功していたのが大阪市であり、1923年に就任した関一(せき はじめ)市長の都市経営は高く評価されています。関市長は、市営地下鉄や大阪港の整備などの交通インフラ、市営公園、公営住宅、区画整理事業などの都市計画に力を入れました。当時は自治体の税収が少なかったこともあり、市営の地下鉄や電気事業等の事業収入を公共サービスの財源にしました。事業収益を一般会計に入れて、保健、教育、土木等の費用のかなりの部分を市営事業の収入で賄いました。特に電気事業はもっとも収益が大きく、一般会計に繰り入れた事業収益の46%を占めました。戦時体制の下で電力会社が再編成される以前は、大阪市営電力事業の収益は住民生活のために重要な役割を果たしていました。

福島第一原発事故以降は全国各地で自然エネルギーの普及が進み、地方自治体が自然エネルギー事業に関わる事例も出てきています。ある意味で戦前の大阪市のような先進自治体がやっていたことと同じです。化石燃料による火力発電に依存していれば、燃料を購入するためにお金がかかり、地域外に所得が流出します。しかし、風力発電や太陽光発電、木質バイオマス発電、小規模水力発電などの自然エネルギーは地産地消のエネルギーであり、地域に継続的な雇用を生み、お金が地域の中で循環するようになります。

ドイツでは約900もの地方自治体が100%出資のエネルギー公社を有し、エネルギーの地産地消を推進しています。さらにドイツでは、全国各地に「エネルギー協同組合」があり、地域住民が出資して自然エネルギーによる発電事業を行い、利益は出資者で分け合っています。地域住民の出資で地産地消のエネルギーを生産し、収益も雇用も域内で生じます。日本もドイツの例を目指してエネルギーの地産地消を進めれば、地域経済を潤し、しかも環境にやさしいという一石二鳥の効果が期待できます。

次に、アメリカ中西部の人口減少都市では「ランドバンク」という制度を導入し、都市の再生に取り組んでいます。ランドバンクは、空き物件、放棄物件、固定資産税を滞納して差し押さえられた物件を取得し、その物件を活用する意思のある第三者に譲渡し、地域の荒廃を防ぐことを目的にしています。また、ランドバンク自体が主体となって空き地や空きビルを再整備して民間に売却することもあります。

日本でもランドバンクと同様の仕組みが必要だと思います。所有者不明の物件や固定資産税の滞納により差し押さえられた物件をランドバンクで一括して管理し、コミュニティ活性化事業に取り組むことも考えられます。ランドバンクが、空き地や空き物件を公共施設の用地として活用し、NPOやケア施設に貸し出すことも可能でしょう。

また、アメリカ中西部の都市のランドバンクが力を入れているのは、空き地や空き家を緑地化するコミュニティ緑地化事業だそうです。ランドバンクは、人口減少で「スポンジ化」が進む地域において都市空間を再編成し、緑豊かな街区を形成していく役割を担わせることも考えられます。空き家は解体し、空き地を公園や緑道、広場などに転用し、緑の多い街をつくることができます。

こういった投資は一見ムダに思えますが、公園や緑地が整備された地域では不動産価格が上昇する事例が多いそうです。不動産価格が上がると、固定資産税収入が増えます。ニューヨーク市のブルックリン地区では、公園整備後に隣接地の不動産評価額が1.4倍に増大し、それにともない固定資産税の増収が28万ドルとなり、公園整備費の公債利子の年間返済額23万ドルを上回り、差し引き年間5万ドルの税収増につながりました。高級住宅地には緑地が多いというのは常識ですが、逆に緑地を増やすことで住宅地の高級化を図るという発想も有益だと思います。

その他に、コンパクトシティの成否を分けた「青森市モデル」と「富山市モデル」のちがいの分析も興味深いです。ごく単純化すると、中心市街地にハコモノを建設し、そのハコモノの運営がうまく行かず、財政的にも失敗したのが「青森市モデル」でした。他方、公共交通機関(LRT)を中心にした街づくりによる自発的集住化を進めた「富山市モデル」は成功しました。富山市の方は、一極集中をめざすのではなく、公共交通機関をうまく活用した多極的な拠点整備を行い、全市的なコンパクトシティ化を実現しました。その結果、人口集中に成功し、LRT沿線に活気が出て、地価も上昇しました。富山市モデルは地方の中核都市でも適用可能だと思います。国としても富山市モデルのような成功例を全国に広げる側面支援をすべきだと思います。

いそんな点で興味深い本「人口減少時代の都市」、地方議員や地方公務員、街づくりに関心のある方にはお薦めです。

*ご参考:諸富徹  2018年 『人口減少時代の都市』 中公新書