安倍政権6年半をふり返る(3):格差が成長を妨げる

安倍政権6年半をふり返るシリーズ第3弾です。安倍政権の経済政策の基本は、経済成長重視です。公平な分配より、成長を重視する姿勢です。大企業や富裕層が先に豊かになれば、その利益がしたたり落ち(トリクルダウン)、中所得層や貧困層もそのうち豊かになるという発想がアベノミクスの根底にあります。

しかし、近年の研究によれば、格差の拡大は経済成長を阻害します。むしろ再分配政策で格差を是正することが、経済成長につながることがわかっています。アベノミクスの異次元緩和は「2年以内のデフレ脱却」に見事に失敗し、理論的問題があることは明らかです。格差是正を放置して、経済成長を優先することは理論的にも否定されつつあります。約3年前の2016年4月12日付ブログを再掲します。

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格差が成長をさまたげる

安倍総理は、消費税増税を延期するためのお墨つきを得るため、国際金融経済分析会合にポール・クルーグマン教授を呼びました。ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン教授は、一般向けにわかりやすい本を書く才能もあり、私も20年以上前の学生時代からクルーグマン教授の著書を愛読してきました。

クルーグマン教授は、消費税増税に否定的な意見も言いましたが、その他にもいろんな意見を発表しています。安倍総理は、クルーグマン教授の他の意見のほうにも耳を傾けてほしいと思います。

クルーグマン教授は「格差是正と経済成長の間でトレードオフはない」と言います。これは経済学の常識が変わりつつあることを意味します。

これまでリベラル派は「経済成長率の低下という犠牲を払っても、低所得者への支援が必要である」と主張してきました。他方、保守派は「富裕層の税率を引き下げ、低所得者への支援を削減し、経済を成長させて全体のパイを拡大すれば、結果的に低所得者の所得も増える(トリクルダウン理論)」と主張してきました。左も右も(=リベラル派も保守派も)「格差是正と経済成長の間にトレードオフがある」という点では一致していました。以前の私もそう思っていました。

クルーグマン教授は、この従来の見方を否定し、「格差が極端になり過ぎると経済成長を損なう」と言います。富の再分配(富裕層への課税強化と低所得層への支援の拡大)は、むしろ経済成長率を上昇させると言います。国際通貨基金(IMF)や国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)の調査でも、そのことが裏付けられています。国際機関の調査では、日本でも格差拡大が経済成長の足を引っ張っていることが示されています。富裕層をさらに豊かにすることが経済成長につながるわけではなく、貧困を緩和することが経済成長につながることが、だんだん証明されてきています。

極端な経済格差は、人材の有効活用をさまたげ、長期の経済成長に悪影響を与えます。低所得の家庭の子どもが教育を受ける機会を奪われると、将来の労働力の質は低下します。人口減少社会においては、教育への投資は、もっとも高収益の投資です。子どもの貧困が深刻になり、子どもの教育機会が奪われることは、長期の経済成長にマイナスです。所得格差を縮小する政策は、労働力の質を高め、長期の経済成長率の上昇につながります。単に「子どもたちがかわいそうだから、子どもの貧困をなくさなければいけない」という公平性の観点だけではなく、「経済成長を実現するために子どもの貧困をなくさなければいけない」という経済的な視点も重要です。

恥ずかしながら自分の不見識さを告白しますが、私自身も10年ほど前は「上げ潮」路線(トリクルダウン理論)は、日本では有効だと思っていました。しかし、その後の世界中の格差拡大についての調査研究を見て、これまでの経済学の常識が変わりつつあることに気づき、考えを改めました。多くの経済学者や政府関係者も考え方を改めつつあります。

いまの日本で必要な経済政策は、上げ潮(トリクルダウン)志向のアベノミクスではなく、再分配政策の強化です。格差の縮小は経済成長や社会の安定にとって重要です。富裕層を優遇しても経済成長率は下がることが明らかになってきました。再分配政策を強化して、より公平な経済をつくることが、実は経済成長率をあげることになります。格差拡大で社会の分断が進んでいる今こそ、クルーグマン教授の再分配強化の提案に耳を傾けるべき時期だと思います。

*参考:ポール・クルーグマン、2014年、「社会の足を引っ張る格差」(『現代ビジネス』)

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